のび出木
二次会には僕も出木杉くんも参加しなかった。
帰り際、自分でも馬鹿みたいだとは思ったが、やはり出木杉くんにもう一度だけ会っておこうとしずかちゃんに居場所を尋ねたが既にタクシーを呼び帰路の途中だという。
出木杉くんにも、出木杉くんに異常なまでに執着している自分にも腹が立つ。
あの一件以来、出木杉くんが僕に好意を抱いていて過去にまだとらわれていることをほんの少し期待していた。体に触れたのも期待を確実なものにして、出来ることなら出木杉くんを思いのままにしたかったからという少し意地の悪い部分もあった。
それなのにあんな交わされ方をされたら、僕の立場がない。
なにが『昔みたいにしてみてよ』だ。恥ずかしいったらない。
「くそ…!」
怒りと羞恥で溢れかえった気持ちを何かにぶつけようと、道端に転がっていた空き缶を思い切り蹴り飛ばしたつもりが空ぶって尻餅をついた。
今日はとことんついていない。
・・・
15年前のあの日。
テストもトップでスポーツも出来て毎日女の子からちやほやされて、おまけにしずかちゃんからも評価されてる出木杉くんへの鬱憤が溜まりに溜まっていた。僕は出木杉くんに嫉妬心からいたずらをしてトラウマを植えつけてやろうと思ったのだ。そんな単純で幼稚な動機だった。
僕は出木杉くんがシャワーをしている時間帯を見計らって両親の部屋で見つけた液体を片手にどこでもドアで出木杉くんの家の浴室に入った。
「うわぁっ!!のびくん!?どうしてここに…」
「出来杉くんに教えたいことがあるんだ」
「でもここお風呂だぞ!それならここでなくても出来るだろう?」
「ここじゃなくちゃ出来ないことなんだ。出来杉くんにもっと頭が良くなる方法を教えてあげたくて」
僕はピンク色のボトルを出木杉くんに見せた。
「信ぴょう性がないなあ。なんだい、それ?」
「ドラえもんがくれた魔法のジュースだよ。教えてあげるから湯舟から上がって僕の上に座って」
「え?な、なに言ってるんだよ!それにのび君、濡れちゃうだろ」
「ドラえもんの道具だから、こうしないと使えないんだよ」
「…わかったよ」
出木杉くんが怪訝そうな顔をしながらしぶしぶと僕の上に座った。出木杉くんの柔らかい肉の感触を太ももに感じながら閉ざされている脚をこじ開ける。
「なっ…なにするんだよ!」
「これを塗って、ここを触るんだ。僕がやってあげる。」
「でもここって…そんな、からだが…変だな、あっ!」
「効果が出てきてる証拠だから、がまんして。ここも触るともっと効果が出るんだ」
「わかった…ぁん、はぁっ!」
出木杉くんの口から声が漏れる度に閉ざされそうになる出木杉くんの脚を無理やり開かせてもっと激しく擦る。
「どうだい?わかるかい?」
はあはあと息を吐き、目を潤ませる出木杉くんの顔をじっと見つめる。そんな出木杉くんを見ているうちに心臓がドキドキと高鳴り始め、手のスピードが早まる。
「わかんないよっ…!というかっ、やめてっ、あっ!」
「がんばって…東大もハーバードも夢じゃなくなるんだよ」
気付いた時には僕は出木杉くんの臀部に自分のを擦り付けていた。出木杉くんに対して湧き上がる熱を嫉妬心では無い何かをぶつけていた。
「ぅんっ…!あっ!のびくぅ…んぁっ!もう…いいって、ん・・ふっ!いっ・・!!」
ビクビクッと出木杉くんが震えた。僕にはよく分からなかった。力が抜けてぐてっと僕の胸に体を預けた出木杉くんがふーっふーっと深い呼吸をしていた。その後、僕は出木杉くんの体のいろいろなところを触ったり舐めたりした。バスルームの床に寝て苦しそうに息をする出木杉くんを放置して僕はどこでもドアで部屋に帰った。
僕は部屋に帰るやいなや生まれて初めて1人でしてしまった。
・・・
全部覚えている。保健の授業で身に付けた半端な知識。どうしてあんなことをしたのだろう。憂さ晴らしであれば、他にいい方法があったはずなのに。
思いだしただけでこんなに反応してしまうなんて、僕の体は一体どうにかなってしまっているのか。
その一件以来、僕と出木杉くんの間には溝が出来てしまった。元々特別仲が良かったわけではないが、早めに登校した日の朝に教室で二人きりになっても、体育でペアを組むことになっても、僕らは必要最低限のことのみを話した。まともに視線も合わすことが出来ない、そんな状態は卒業まで続いた。出木杉くんは私立中学に進んで僕たちは離れ離れになった。卒業式の帰りに一度だけ目が合った。それで出木杉くんと僕の関係は終わったはずだった。
会わなければ良かったなあ…
中途半端に会ってしまったからあんな馬鹿にみたいな行動や発言をしてしまったのだ。今日は行かなければ良かった。もやもやして、いらいらして、堪らない。