こらぼでほすと 拾得物1
それなりに怪我はしているから降りてくるのは数ヶ月は先になるだろう。その時は、ライルも降りてくる。死んだことになっている自分が生きているとわかったら、さぞかし驚くだろうとも思うし、騙していたことに激怒するかもしれないと覚悟している。十年も言葉を交わさなかった弟が、どうなっているのか、それも心配だが、生きてるからいいか、と、今は思っている。ニールが予想した通り、ライルはロックオン・ストラトスとして無事にマイスターの仕事をやり終えて生き残った。それだけで十分だと思っている。
久しぶりに、寺へ帰ったら、悟空も戻っていた。おかえり、と、出迎えてくれる。どうやら、部屋は片付けてくれたらしく、こざっぱりしていた。坊主は、パチンコに出ているとのことだ。
「学校は、もう始まってるのか? 」
「ううん、まだだ。刹那たち、無事でよかったな? ママ。」
「ああ、降りてくるのは、まだ先になりそうだけどな。・・・・・こっちの用事をしたら、また、明後日には向こうへ戻るから。」
トダカが、りあえず、一度、帰ってきなさいというので、二日だけ戻ることにした。一人では、チェックだけといえど大変なので、交替要員にメイリンが来てくれた。歌姫のスタッフで、普段は、歌姫の仕事に随行しているが、今回ばかりは、人員不足だから、と、歌姫も貸してくれたらしい。とはいうものの、トダカばかり働かせるわけにもいかないから、トダカにも休んでもらうために、戻らないといけない。
「しょうがないよな。みんな、宇宙に上がってるから。」
「うん、ごめんな。また、おかずは冷凍しておくから、どうにかしてくれるか? 」
「いいよ、いいよ。とりあえず、ゆっくりしなよ? そのための休みなんだろ? 」
「そうもいかないだろ? ああ、とりあえず、ホームセンターへ行かないとな。・・・・・買い出すものをメモするか。」
チラシをチェックしつつ、在庫が切れそうなものを見て回る。それから、今度は、冷蔵庫の中身と乾物なんかもチェックする。一ヶ月もすると、いろいろとなくなっているので、買出しも、相当な量になってきた。
「悟空、クルマは乗れるんだったかな? 」
「免許はあるんだけど、三蔵が許可しない。」
「うーん、俺も長いこと乗ってないんだけどなあ。とりあえず、今日は食料だけにするか。」
手で運べる範囲ということになると、その辺りが妥当だ。この四年近く、ほとんどクルマの運転はしていない。寺には、誰かいるから、自分で運転しなくても、どうにかなっていた。まあ、最たる運転手は、ハイネだったが。
古女房が戻ったので、坊主も機嫌良く晩酌なんかする。つまみも豊富だし、食卓が明るい。
「まあ、付き合え。」
「え? 俺は・・・寝ちまうから。」
「いいじゃねぇーか。サルがやる。」
じゃあ、少しだけ、と、ニールも付き合ったが、薄い焼酎のお湯割り二杯目あたりで沈没した。年々、弱くなってないか? と、笑いつつ、さらに飲む。
「気が抜けたんだろ? ずっと、心配してたからな。」
悟空が、タオルケットをかけて、こちらも食事を再開する。
「これで、終わりってわけでもなさそうだがな。」
「でも、刹那と逢えるようになるだろ? ずっと待ってたもんな。」
「おい、サル。ママは、うちで確保するからな。ちびに盗られるんじゃねぇーぞ。」
「無茶言うなよ、さんぞー。元々、ママは、刹那のママなんだぜ? 俺らは、刹那の代わりだったんだから返すのが筋だろ? 」
俺がいるだろ? と、悟空は笑っているが、三蔵のほうは少々、複雑だ。サルは、いずれ、何か目標でもできて、ここから巣立ってゆく。今は、その準備段階だ。それは、とても喜ばしいのだが、このだだっ広い寺に、ひとりというのも、どうも寂しい。同じような保護者のニールも、似たようなことだから、同居して貰うなら、そちらのほうがいい。すっかりと、その生活に三蔵もニールも馴染んだから、出来る限りは一緒に暮らすつもりはしている。
翌朝、頭痛てぇーと呻きつつ起きたら、すでに昼だった。明日の朝には、ラボへ戻るから、やることは山積みだ。
・・・・・きゅうりとトマトぐらいなら植えられるかな・・・・・
あまり手間のかからない野菜なら、毎日の世話をしなくも実るはずだ。それだけは植えておこうかなと思っていた。それから、冷凍庫満杯に作り置きのおかずを用意するつもりだ。多少、手抜きに冷凍食品も混ぜておくが、カレーとかピラフとか肉じゃがとか解凍しても、おいしく食べられそうなものは作っておく。台所で、ドタバタと作っていたら、坊主が顔を出す。
「まだ、行くのか? ママ。」
「明日の朝から行きます。」
「おまえ、大丈夫なのか? しばらく休め。」
「いや、トダカさんが、ほとんど休みなしだから、俺が代わらないと。後で、クルマ出してくれませんか? 三蔵さん。ホームセンターまで。」
「きゅうりのためなら、しょうがねぇーな。」
「あんた、そんなにきゅうり好きでしたか? 」
「そういうことにしておけ。」
当人たちは、普通の会話だ。四年も夫婦もどきをやっていると、こんなことになってくる。
「間男参上。邪魔するぜ? 」
それを、ものともせず声をかけるのは、ハイネだ。プラント経由で地上に降りてきて、とりあえず、こちらに顔を出した。
「あれ? ハイネ、なんで、おまえ、ここに? 」
「ひとまず、宇宙任務完了で、地上任務に移行ってことでな。・・・・・今日は、カレーか。いいね、カレー。福新漬けも頼むぜ? 」
「ああ、それはあるけど。」
「それから、ママニャンは、しばらく寺で休め。トダカさんは、俺が交替するから、戻らなくていい。」
ラボのほうへ連絡したら、トダカから、そちらの伝言を頼まれた。戻ってくるつもりだろうから、止めてくれ、と、言われたのだ。ついでに、ハイネにも、二日ほど休んでから、こちらへ来いとも言ってくれた。ほぼ休みなしで動きまくっているハイネにも気遣いしてくれるトダカは、さすが、じじいーず筆頭だ。いや、もしかしたら、ぴちぴちのメイリンと楽しい時間を過ごしているから邪魔するな、という意図もあったかもしれない。
「え? いいのか? おまえ、休みなしだろ? 」
「ここで、明日の夕方まで、のんびりする。三蔵さん、そういうことなんで、よろしく。」
「それなら、おまえ、運転手してやれ。ママは、ホームセンターへ買い出しだ。」
「ああ、いいよ。」
勝手知ったるなんとやらだから、ハイネも勝手に冷蔵庫から冷茶を取り出して飲んでいる。ニールは、どっかで回線を切っているので、ハイネの顔を見て、しばらくしてから、「あいつらは? 」 と、尋ねた。これが、マイスターのおかんモードだ。
「無事だよ。怪我はしているが、深刻なものじゃない。今は、再生治療中だ。・・・・二ヶ月ほどしたら下ろすことになっている。・・・・・俺は、あいつらを直接、救助してないから言葉は交わしてないんだ。悪りぃな。」
「・・・そっか・・・無事ならいいんだ・・・」
作品名:こらぼでほすと 拾得物1 作家名:篠義