こらぼでほすと 拾得物2
「どうみても、三蔵さんは、ニールがいないと困るだろ? 」
「トットダカさん? 何言ってんですか? 」
「おいおい、耄碌するにしちゃあ、早くないか? あんた。」
「そんなの、ママが可哀想だろ? トダカさん。そのうちさ、ママだって、いい人ができるかもしんないじゃん。」
また、三蔵とニールが、まったく、そういうことだと気付いていないわけで、唯一、トダカの言葉を理解している悟空は、ニールを同情しての言葉だったりする。一応、本山の元悟空の保護者たちも、ニールを三蔵の嫁として認定しているが、それだって覆しても問題はない程度のことだ。
「けど、悟空くん、きみが結婚しても、三蔵さんは一人だしね。いっそのこと、ニールに永住してもらったほうがいいんじゃないのか? 」
「そりゃ、俺としては住んでてもらいたいけどさ。この二人、いちゃいちゃしてるけど、そうじゃないんだぜ? うちのママ、本気でノンケだし、うちの親父も、そうだしさ。それって不毛じゃない? 悟浄と八戒みたいなら、俺は反対しないけどさ。」
「いや、もう、この際、そこのところは目を瞑ってしまえば・・・・」
お年寄り茶飲み友達夫婦なんてものもあることだから、そういう方向なら、と、トダカが言うのだが、悟空は、それにしては年が若過ぎると反論する。当事者は置き去りだ。
それを見て、ニールは笑っているが、三蔵は、ちょっと考える。なんだ? と、そちらへ視線を移したら、三蔵がニヤッと笑った。
「連れ子が四人増えても、俺は別に気にしないから、とりあえず住んでろ。」
「というかさ。四人だから、あいつらはマンションに住めばいいだろうと思ってんですよ。俺が、こっちに本格的に引越しちまえば部屋はきっちり埋まるでしょ? いや、ほとんど、こっちに住んでるようなもんだしさ。」
どうにか終わって降りては来るが、組織は存続したままだ。だから、今までと変わらない生活だろうと、ニールも思っている。復帰できるなら、組織に参加したいと、今でも思っているが、どうも、それは無理らしい。年々、体調が良くなるなんてことになっていないからだ。むしろ、体力的には落ちている。三蔵も、それはわかっているから、こう言ってくれるのだ。
「俺は、おまえが女房をしてくれると有難い。」
「あーまあ、俺も、こういうのが性に合ってるみたいだよ。」
で、まあ、この会話なわけだから、トダカが言うことも、悟空は分かるのだ。どう見てもいちゃいちゃしているように見えるからだ。
「ナチュラルに夫婦なんだよな。うちの親父とおかんはさ。」
「五年もすると、こうなるのさ。だから、私は勧めているんだけどね。」
だが、当のふたりは、ふたりして、「冗談じゃない。」 と、言うので、やっぱり、そのまんまであるらしい。
親猫の午睡の時間に、寺へ珍客が現れた。よおう、と、マーズが三蔵に声をかけると同時に、坊主は顔を上げた。
「なんで、おまえが、ここにいるんだ? 」
「ママをお迎えに参りました。」
厳つい護衛の前には、その護衛対象の歌姫様だ。ニコニコと微笑んでいるのが、三蔵には、見たくない光景だ。
「黒ちびでも死んだか? 」
「笑えない冗談です。・・・・刹那なら、まもなく降りてまいります。ぴんぴんしておりますよ? 」
「それなら、ここで待ってればいいだろうが? わざわざ、どこへ連行するんだ?」
ここでは、いろいろと問題があります、と、歌姫は言う。撮影設備が完備していないところでは、感動の場面を撮ることは不可能だからだ。
「別荘で、ゆっくりしていただこうと思います。しばらく、お返しいただきます。 」
ヒルダが起こしてきたらしい。ぼおーっとアクビしつつ、ニールがやってきた。居間の前に立っている歌姫に気付いて、挨拶する。
「よお、ラクス。今日は休みなのか? 」
「ええ、ママ。しばらく、お休みなので、私くしの相手をしてくださいませ? 」
「ああ、客間が空いてるからいいぞ。」
「いえ、別荘へ参ります。」
「あーそうだよなあ。人目のあるとこじゃ、ゆっくりできないか。・・・・・三蔵さん、ちょっと留守しますね。」
ちょっと準備するから待ってろ、と、親猫は、留守をするから、家の用事を片付けるために動き出す。ヒルダたちは、卓袱台の前に、どっかり座りこむ。そこには、すかさず、親猫によってお茶が運ばれる。歌姫様は、親猫の後をついてまわって、会話を楽しんでいる。歌姫が、ママと呼ぶので、ニールのほうも、普通の娘として扱っているから、台所仕事を手伝わせたりする。
「一体なんなんだよ? 」
事情は、ヒルダたちに尋ねるに限ると、三蔵が口を開く。
「ちびが戻ってくるだろ? 感動の再会は、やっぱりきっちりと記録しておくべきじゃないかい? 」
「それか。・・・・よく休みが取れたな? 」
「これだけ世界が騒然としていると、ラクス様でも動けないからさ。・・・・まあ、一段落さ。マイスターたちも無事だったし、組織も維持できそうさね。」
「まあ、あいつも、これで落ち着くだろう。」
台所から聞こえるはしゃいだ会話と後ろ姿に、三蔵も頬を歪める。ここ何ヶ月かは、気が気でないという様子を隠していた。眠れないから、三蔵の晩酌に付き合って、それで寝ていた程だ。とはいっても、コップ一杯しか飲めないのだが。
「しかし、あんたは、どうする? ママは、ちびに返還せにゃならんだろ? 」
「返還? ママは、うちに住むさ。今と変わらねぇーよ。マンションじゃ、部屋が足りないからな。」
「そうもいかないだろ? あいつらだって一緒がいいって言うに違いねぇーぞ? 」
四人、いや、五人一緒に顔を合わせるのは、始めてのことになる。兄弟なんか十年以上ぶりだと言うから、積もる話もあるだろうと、ヘルベルトは言うのだが、三蔵は取り合わない。一段落ではあるが、終わりではないからだ。組織自体を存続させるということは、依然として刹那たちの拠点は宇宙になる。降りてくる回数は増えても、全員が揃うのは、滅多にないことになるだろう。
こちら、台所では、人参の皮むきをしつつ、歌姫が現状を報告している。じゃがいもを剥きつつ、それを親猫も聞いている。
「フェルトから連絡がありました。怪我もしていないそうです。」
「・・・そっか・・・・」
「現ロックオンは、あなたと同じナチュラルの人間ですから、まだ治療が終わらないそうですが、刹那とアレルヤたちは、それも完了しています。ティエリアは、ヴェーダを奪還したので、それとのリンクで調整があるので、しばらくは、そちらで。」
「・・・うん・・・・あ、それ、千切りな。」
「はい。あら、カレーじゃないんですの? 」
「ああ、それは豚汁。カレーは、まだ冷凍したストックがあるんだ。」
「私、アイリッシュシチューが食べたいです。」
「ポトフと似たようなもんだぜ? なんか、レイも好きなんだよなあ。」
「明後日の夜は、ホワイトソースのオムライスをしてださい。それが大好きな黒猫が匂いに誘われて現れます。」
「え?・・・・・・ああ・・・・黒猫だけか? ラクス。」
「ええ、明後日は黒猫だけです。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物2 作家名:篠義