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こらぼでほすと 拾得物2

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 向こうには聞こえないように、ふたりして小声で喋っている。迎えに来た目的を、歌姫が、さらりと告げると、親猫も笑っている。事後処理があるから、何ヶ月かかかるだろうと思っていたのに、存外早い。

「また、単独行動か・・・・・利かん坊は成人しても治らないもんだな。」
「刹那は、実行力があるということにしてあげてください。」
「はははは・・・・ラクスは、刹那に甘いな? あいつ、マイスター組リーダーなんだから、それじゃいけないと思うぜ。」
「まだ、若いから、あれでよろしいんですよ? ママ。今から落ち着いていたら、おもしろくありません。・・・・次は?」
「ん? ああ、じゃあ、こぼうをササガキで。」
「たまねぎをやりましょうか? 」
「いや泣くのイヤだろ? こぼうをやってくれ。」

 天下の歌姫様は、料理ができる。普段は忙しくてできないから、たまに手伝うのは楽しいらしい。だから、ラクスが休暇だと現れたら、ニールは容赦なく手伝わせることにしている。これも一種のストレス解消にはなるからだ。

 そこへ悟空が帰ってきて、さらに、参加者が増えた。悟空にとっては、歌姫様は友人だから台所を手伝ってくれているなんてのは、普通のことだ。他人様が見たら驚愕するだろうが、ここでは、誰も驚く光景ではない。

「てか、明日の準備ってさ。俺がするからいいんだよ。」
「まあ、腐る時期じゃないからさ。・・・・なあ、ラクス、今日は急ぐことはないなら、こっちで食ってから移動しないか? 悟空、広島焼きしようぜ? 準備してくれ。」
「広島焼き? それは、どういうものですか? 」
「お好み焼きの軽いヤツって感じかな。それとも、明石焼きとかたこ焼きする? あれも、具をいろいろ入れるから楽しいぜ? 歌姫さん。」

 いろんなのが出入りするから、大量に作るのは慣れているし、簡単に作れて楽しい料理というのも、悟空とニールだと豊富に知っている。

「両方やりましょう。ヘルベルトさんたちもいらっしゃるから量は捌けますわ。」
「了解っっ。あ、タコねぇーや。」
「それなら、メモするから買ってきてくれ。」

 広島焼きとたこ焼きは、残り物ツッコミでオッケーだが、明石焼きはタコがないと始まらない。ちょっくら、スーパーへひとっ走り、と、悟空がメモを片手に足りないものをチェックする。それを横目にして、居間のほうへ、ニールが声をかける。

「マーズさん、ヘルベルトさん、ヒルダさん、うち、焼酎とビールしかないけど、飲み物は、それでいいか? 」
「え? メシ食うのか? 」
「急がないから、移動すんのは夜でいいんだろ? 俺、ちょっと作り置きしたいからさ。ラクスも、それでいいって言ってる。」
「ニール、悪いけど、あたしらは仕事中だからアルコールはナシだ。炭酸の入ってる飲み物にしておくれ。」
「ああ、はいはい。三蔵さん、そういうことですから。」
「お?  おお。」

 それは、つまり天敵を目の前にしてメシを食え、ということらしいが、それを言うわけにはいかないから三蔵も頷くだけだ。もし、そんなことを言おうものなら、「ラクスも、うちの子なんですよっっ。差別しないでください。」 と、親猫に叱られてしまうからである。 







 ヴェーダは、かなり大きい。直径15キロもある巨大な人工物だ。今は、人工的に作られたクレーターにすっぽり収まって、月と一体化している。そこへ小型艇で、アレルヤが入った。

「どうした? 」

 小型艇を乗り入れると、すぐに、ティエリアが、そこに通信を寄越す。ボイスオンリーなのは仕方がない。

「うん、あのね。キラが地上に降りたので僕が代わりに迎えに来たんだ。」
「予定では、後一ヶ月あるはずだろ? まだ、無理だ。」
「わかってるよ。エターナルで待ってるより、ここで、きみと話をしながらのほうが、僕が楽しいから押しかけてきたんだ。いいかな? 」
「・・・・・声だけだぞ? 」
「うん、いいんだ。ここに、ちゃんと居住設備もあるって聞いたけど、ほんと? 」
「ああ、イノベイドたちが暮らしていた場所がある。しかし、食料があるかどうかはわからない。」
「一応、一ヶ月分くらいは持ってきた。それに、足りなくなったら取りにいけばいいしね。ここからなら、プラントは、そう遠くないよ。」
「そうか、では歓迎しよう。誘導路について入って来い。荷物は、後でいい。」

 ちゃんと、通路が連結されて開かれた。誘導路が、進む場所を知らせている。それを目印にして、奥へと進むと、ここがヴェーダの中? と思うくらいの庭と建物が現れる。人工光ではあるが、鮮やかで温かい光があり、樹木もホンモノだ。そして、空気もある。

「すごいね。もっと、トレミーの居住区みたいなの想像してたよ。」
「ここで、イノベイドは暮らしていたんだ。地球を意識した作りなのだろう。」

 建物の内部も広かった。ここから、地上やコロニーのメディアを視聴することも可能だと、ティエリアは説明する。もちろん、施設の中にはジムなどのトレーニング設備もあるし、普通に地上で暮らしているのと遜色のない状態だ。

 それらを案内してもらいながら、アレルヤは、ティエリアとの久しぶりの会話を楽しんでいる。ただ、ちょっと寂しいのは声だけだということだ。

「早く、きみと逢いたいよ。」
「それは視覚的な意味か? 」
「まあね。でも、すぐに逢えるからいいんだけど。」
「・・・・ったく、人間というのは厄介だな。」

 きみだって人間だろ? と、アレルヤが切り返そうとしたら、そこに、ティエリアの姿が現れた。ただし、後ろの背景は透けている。ヴェーダの中でなら、立体映像を投影することは容易いのだ。

「これでいいのか?  」
「・・あ・・・うん・・・やっぱり、このほうが嬉しい。」

 以前と変わらないピンクのカーディガンを羽織ったティエリアは、仁王立ちで、ふんっと鼻で笑っている。それを見て、アレルヤは、ほんわりと微笑む。

「触ることはできないから意味がないぞ。」
「でも、きみの表情は見えるからね。・・・・・・ねぇ、ティエリア、生きててよかったね。また一緒だ。」
「そうだな。どうやら、地上で働いて暮らすことはできそうにないがな。」

 結局、自分たちは、組織に在籍する形になるだろう。だから、長期休暇はあっても、延々と地上で暮らすことは叶わない。約束したことは、全部が叶うわけではないけど、一番大事な部分は叶うのだから、それでいいのだろうと、アレルヤは思う。

「ニールのところへ帰るから、その時はバイトとかしてみようかな、とは、思うよ。・・・・そうそう、刹那ね、ロックオンが治るのを待たないで地上に降りちゃったんだ。」
「また、寝込んでるのか? ニールは?」
「ううん、逢いたかっただけだと思うよ。」
「あほライルは、まだ治らないのか? 軟弱だな。」
「彼は、一般人だからね、ティエリア。僕らとは違うから。」

 ティエリアも、普通ではないから、よくよく考えると、マイスター組は、ほぼ普通じゃない人間の集まりとなりつつある。

「僕らも、『吉祥富貴』のスタッフとしての有資格者ではあるけど、ロックオンは無理そうだね。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物2 作家名:篠義