こらぼでほすと 拾得物2
「そうでもないだろ? あほライルは、純粋種の刹那の嫁なんだ。そのうち、何かには変化するんじゃないか? 」
「あははははは・・・・確かに珍しいよね? 今のところは、たった一人だ。」
イノベーターが一人なら、その嫁も、一人だ。そういう意味では、普通ではないだろう。
「ということはさ、僕らのおかーさんなニールも、たった一人だよね? 」
「超兵とヴェーダとイノベーターを子供に持っているなんて、歴史上にもいないだろう。・・・・僕も逢いたくなってきた。」
ずっと四年間、変わらず居場所でいてくれたニールの顔を、ティエリアも見たくなってきた。今でも機械を通して、その映像を見ることはできるが、生身のニールに言いたいのだ。
「僕も。『ただいま』って言いたいな。」
もちろん、アレルヤも同じことを考えていた。
「なあ、アレルヤ。僕の姿が多少、異なっていても、ニールは受け入れてくれるだろうか? 」
「それは関係ないと思うよ。ティエリアはティエリアだもの。」
間髪入れず返された言葉に、ティエリアも微笑む。どう考えても時間が足りない。だが、逢いたいのも確かで、完璧な状態まで待つほうがいいのか、悩んでいたのだ。アレルヤが認めてくれるなら、問題ない。形になったら、戻ることにしようと決めた。
後一ヶ月はかかるぞ、と、伝えると、待ってるよ、と、返してくれる。この繋がりが大切だと気付いてよかった、と、今は思う。作られた存在ではあるけど、心は自分のモノにできた。だから、アレルヤの迎えが嬉しいし、地上のニールにも逢いたいなんて思う。さっさと降りてしまった刹那を羨ましいと思うし、あほライルのことを、なんだかんだと言いつつ気にしたりするのだ。
この気持ちは、自分だけが持つものだ。ヴェーダになっても、その部分は失われなかった。つまり、これが自分の核であり、人間で言うところの魂の部分であるのだろう。それがあれば、ティエリア・アーデだと自分でも思える。ただし、外見の問題というものが残っている。
「アレルヤ、どこまでなら僕だと言いきれる? 」
「え? 」
「いや、早く逢いたいんだが、その・・・・とりあえず、きみが、僕だと認められる範囲を教えてくれ。そこまでになったら、動こうと思う。」
とりあえず、現状を見せるから意見を言ってくれ、と、ティエリアが培養ポッドへと案内することにした。
シャトルで、プラント経由で戻ってきたら、親猫は別荘だと迎えの鷹に告げられて、キラたちと別れて連行された。シンもキラも一緒に行く、と、騒いだが、「家に帰れ。」の鷹の一喝で散らされた。
「寝込んでいるのか? 」
「いいや、オーナーが休みでさ。それで別荘で遊んでるだけ。・・・・お疲れさん、せつニャン。」
『吉祥富貴』のMS組の面々が水面下で動いて救出してくれたことは、刹那も聞いた。鷹は、エターナルではない艦を母艦にしていた関係で、直接、顔を合わせていなかった。
「ああ、あんたも。協力感謝する。」
「しばらく、ゆっくりできるんだから、親孝行してやってくれ。結構、ヤバかったんだぞ?」
「わかっている。」
「もどきのことも、ちゃんと、紹介しないとダメだぞ。ママニャンには、それとなく話してあるが、確定はさせてないからな。」
「ああ。」
刹那が、現ロックオンと夫夫になっちゃった、という情報は、さすがに、なんて伝えていいか、じじーいずでも悩んだ。それとなく、ソフトに伝えるだけが精一杯だったのだ。同じ顔の現ロックオンを嫁にした、ということは、元々、元ロックオンにも、そういう感情があったってこと? と、誰もが考えるわけで、そうなってくると、話が複雑になってくる。だから、当事者に紹介させるほうがいいだろうという結論に至っている。
「もどきが来てからでもいいさ、そっちはな。」
紹介する前に、ニールが生きていたことを、現ロックオンには説明しなければならない。刹那は、「ロックオン・ストラトスは死んだ」 と、言ったのは、ニールからの指示だった。生きていると判ったら、やらない、と、言いそうだから、というのが、その理由だ。弟のほうは兄弟で、いろいろと比べられることが、昔から大嫌いだったからだ。死んだ人間と比べられても、どうにもならない、と、思わせて、自分=ロックオンであることを刹那たちに認めさせる努力をさせようということだったらしい。
キッチンに居るから行って来い、と、ヘリポートで鷹から背中を押された。別荘は、静かだった。すでに、食事の時間は過ぎている。刹那が戻ることがわかって、夜食の準備をしてくれているのだろう、ということは判っている。自分の親猫は、いつもそうだからだ。まあ、だいたい、出て来るものも想像できる。
ホワイトソースのオムライス
ビーフコンソメの粉末スープ
りんご
というのが、刹那専用お夜食メニューだ。キッチンへと足を進めると、ガタガタと動いている音がする。ヘリの音で最後の仕上げをしているのだろう。
後ろ姿は、変わらない。トントンとフライパンの柄を叩いてタマゴで包んでいるところらしかった。
「ただいま。」
「おかえり。メシ食うだろ? 」
「ああ。」
いつもと変わらないやり取りをして、台所の片隅の椅子に座りこむ。カタカタと音がして、目の前の調理台に、ホワイトソースのかかったオムライスが置かれた。それから、サラダとカップに入ったチキンブイヨンスープだ。オムライスには、人参とインゲンのグラッセがついていて豪華版だ。
「デザートもあるからな。」
「ああ、無事か? 」
「それは、俺の台詞だ。怪我は?」
「再生治療で完治した。ライルは、まだ治療中だが問題ない。」
渡されたスプーンで、オムライスを一口。すっかり好物認定されてしまったが、刹那は、これが好物というわけではない。というか、この甘口の子供用ソースは、そろそろ卒業したいと思っているのだが、言い出せなくて、ずっと四年間、刹那の好物だと思われたままだ。お互い、何も言わなくても通じるものがある。親猫は、この姿を見せれば、それで十分だと、刹那は思っているし、親猫も、満足している。涙の再会とか感動の抱擁とか、そういうものをシンたちは予想していたようだが、そんなものあるわけがない。ふっと、それを笑ったら、ん? と、親猫が視線で尋ねる。
「シンたちが、俺とあんたが涙しながら抱き合うと思っていた。」
ああ、と、ニールも苦笑した。そりゃまあ、無事生き延びたということには安堵しているが、それで嬉しくて泣くなんてことはない。
「どこのB級ムービーだよ? 」
「まったくだ。俺とあんたで、そんなものあるわけがない。・・・・・組織は存続する。」
「ああ、そうだろうな。おまえさんが思うようにやりゃいいさ。たまに降りてくればいい。」
ヴェーダを奪還した。しかし、これと世界の紛争根絶とは別物で、地球連邦の創設が成される上で、絶対的抑止力としてCBが活動していることは、アピールする方向だ。『暴れたら武力介入するぞ。』 という脅しになるからだ。だから、ずっと傍にいることはできない、と、暗に刹那は謝っている。
作品名:こらぼでほすと 拾得物2 作家名:篠義