こらぼでほすと 拾得物3
ニヤリと笑ってマグナムを撃ち込んで来る八戒なんて、あまり拝みたくないと悟浄は思う。そして、ポッと頬を赤らめて艶っぽい顔で、自分を見る三蔵なんてものは、一生、いや、転生しても、絶対に見たくない代物だ。
「まったく違うものに見えてないと、無理ですよね? 」
「見えてるから、嫁に出来たんだろ? 」
黒猫には、あの双子は、まったく別物だと見えているのだろうと思われる。そうでないと、無理だからだ。そこで、ポンと八戒は手を打った。何かを思いついたらしい。
「僕、目が悪いから多少は大丈夫かもしれません。」
「はい? 」
「ああ、でも、キスの段階で気付くんですかね? タバコの銘柄で味が違いますか。あなたの顔をした悟空なら、どうにかなるような気が・・・・」
「八戒さん? それ、もうやめない? 俺、背筋が冷たいんだが? 」
このヨタ話はいただけない。違う話題変えようと、テレビをつけてみた。すると、背後から、がばりと抱きつかれた。耳元に熱い吐息交じりの声が聞こえて、別の意味で背筋が震える。
「くくくくく・・・・・僕が、いつもと違ったら、どうします? 例えば、三蔵のようになったら?」
「別に、新しいことしたいんだな。という程度で楽しむよ。・・・・これは、これは気付きませんでした。なるほど、ケダモノになりたいと、八戒さんはおっしゃりたいわけですか? いやいや、気付きませんで、もちろん、リクエストには喜んでお答えいたしましよう。」
遅いんですよ、このタコ、と、言いつつ、八戒のほうもしなだれかかってくる。慌てる用事はないし、明日も休みだ。なるほど、なるほど、と、悟浄もテレビの電源をオフにして、身体の向きを入れ替えた。
現ロックオンが、墓参りを終え戻ってきたのは一週間後だった。まあ、いろいろとやらなければならないことがあったらしい。エアポートまで迎えに行った刹那が、寺へ連れて帰るまで、落ち着かないニールのほうは、うろうろと歩き回っていた。掃除はした、洗濯物は、まだ取りこむ時間ではない。晩ご飯の準備には早い。いつもなら昼寝をするのだが、目が冴えて、そんなものは無理。と、いって、落ち着いて座っていられる気分でもない。
「あの、そこまで迎えに行ってきます。」
そろそろ戻ってくるだろう。大通り辺りまで出迎えてやろうと立ち上がったら、コメカミに怒りマークを浮き出していた坊主に一喝された。
「座れっっ。」
「あ、でも、ほら・・・迷ったり」
「ちびが迷うことはねぇーよ。いいから、座れっっ。おまえが、バタバタしたって事態は、なんにも変わらねぇー。」
「そうだよ? ママ。」
「ママ、落ち着いてくださいな。私くし、アイスティーが飲みたいです。」
「こんにちわ、ニール。これ、差し入れだ。冷やしてくれ。」
そして、居間に顔を出したのが、大明神と歌姫とトダカだ。どういう陣容だよ? と、坊主がツッコむ。
「ライルが、暴走した時のストップ要員? 」
「兄弟再会シーンの鑑賞に。」
「まあ、有り体に言うと、野次馬だよ、三蔵さん。」
居間に座りこんだトダカは、ニールにケーキと思われる箱を手渡しているし、キラとラクスは、すでに台所で、アイスティーの準備をしていたりする。
「ああ、ラクス。作らなくても、冷蔵庫に冷やしてある。トダカさん、アイスコーヒーでいいですか? 三蔵さんは? 」
「トダカさんと同じでいい。」
まあ、有難いといえば、有難い。どんな展開になるのか、皆目見当のつかない三蔵としては、できたら自分が逃げたかったからだ。
すぐに、冷たい飲みモノが運ばれてきて、ケーキも取り分けられる。キラたちは、すぐに手をつけたが、ニールのほうは、それを見るだけだ。そこへ刹那が現れて、ニールの腕をとって外へと歩き出した。もちろん、「邪魔するな。」 と、その場の全員に釘は刺した。
エアポートで待っていた刹那は、いつも以上に無口だった。再会の抱擁も、おざなりで、なんだか、ライルにしたら不満だ。それから、目的地を告げることもなく、勝手に移動を始める。駅から歩き出したところで、ようやく口を開いた。
「おまえには謝らなければならないことがある。」
「ん? 」
「現物を確認させないと、おまえは信じないだろうから、それを確認したら、殴るなり蹴るなり、離婚するなり、おまえの好きにしていい。」
「はあ? 」
この直球ど真ん中の言葉は、ライルも慣れてきたが、それでも意味が分かるには至っていない。現物? なんだよ? というぐらいのことである。それから、また、無言で歩き出す刹那についていく。
・・・・・どうせなら、もっと、こう、直接的にさ。可愛がってやるって言ったのは、刹那じゃん。・・・・・・
そういう展開を予想していたので、ものすごく素っ気無いのが物足りない。いっそ、どっかへ拉致してやりたいとか思ったが、刹那の雰囲気が、真面目なもので、それもできかねた。大きな寺の門を潜ると、境内の真ん中で立ち止まった。
「ここで待っていろ。」
刹那が、建物のほうへ入っていくのを見送ると、周囲をぐるりと見渡した。東洋の建物というのは、よくわからないが、かなり年代モノらしいということは分かる。境内の隅にある樹木が、それなりの年数の経ったものばかりだからだ。
「ライル。」
呼ばれたほうに目をやったら、信じられないものが見えた。
「え? 」
あちらも、困ったように、こちらを見ている。刹那に腕を取られて、目の前まで連れてこられた。まるっきり、自分と違わない姿の男が、そこにいる。
「ニール・ディランディ。おまえの兄だ。現物があれば信じられるだろう。死んだというのは、嘘だ。ただ、マイスターとしてのロックオン・ストラトスとしては死んだから、そう伝えた。」
「ライル? その・・・ごめんな・・・・俺が生きてるとわかったら、おまえ、甘えそうだったからな。それで、死んだことにしてもらったんだ。・・・・・ロックオンになってくれてありがとう。感謝してる。そして、無事でいてくれてよかった。」
自分は、天涯孤独だとばかり思っていた。兄も、一瞬恋人になってくれた女も、家族も、全部、手から摺りぬけて、残ったのは刹那だけだと思っていた。だから、その男が兄だと認識できなくて言葉にならない。
「・・・あ・・・え・・・」
「酷いことして悪かった。殴るなり蹴るなり好きにしていい。・・・・・もし、逢いたくないなら、もう、こちらに呼び出したりもしないから。」
まあ、納得できないだろうな、と、ニールは、そう言って笑った。もし、自分がやられたら、やっぱり怒るだろう内容だ。いろいろと勝手なことをしていたから、呆れられているだろう。それもあるから、死んだことにしたほうがいい、と、思ったのだ。
「ニール、それは俺の台詞だ。それから、俺は、こいつと結婚したから、これが俺の嫁だ。」
「はあ?」
刹那の爆弾発言に、今度はニールが言葉を失う番だ。結婚? これと? と、ライルを見る。どう見ても、自分とほぼ同じ姿形の生き物だ。性別も男だ。
「刹那さん? 男同士だけど? 」
「それは関係ない。まあ、可愛いし、身体の相性もいいから問題ない。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物3 作家名:篠義