こらぼでほすと 拾得物3
「かっ可愛い? これが? 」
恐る恐るといった感で、ニールがライルを指差す。
「おい、兄さん。これはないだろ? これはっっ。あんたと、俺は同じ顔だよっっ。だいたい、なんなんだよ? エプロンなんかしちゃってさ。あんたこそ、ここで何やってんの? 結婚して専業主夫でもしてるわけ? 」
で、すかさず、刹那が説明を挟む。余計な説明だが、刹那としては、大真面目だから始末が悪い。
「籍はいれてないが、ここの女房もやっている。」
「刹那くん? それ、意味が違うからっっ。・・・・・俺は、ここで家政夫をやってるんだよ。おまえこそ、八個も年下の刹那を誑かしてんじやねぇーよっっ。健全な男女交際も経験のない刹那に、何をしやがるんだっっ?」
「だって、刹那、男前なんだもん。俺を迎えに来た時なんて、白馬の王子が現れたかと思ったほどだ。年の差なんて関係ないね。愛があれば、それでいいんだよ。一発殴らせろ、どれだけ精神的に追い詰められたと思ってんだ? あんなところで、あんたと比べられて、どんだけ辛いと思ってんだよっっ。」
殴られる覚悟はしていたら、お好きなだけと、ニールも答えた。だが、解せないのは、刹那だ、よくもこんなのを嫁にするな? と、不思議で仕方がない。
「ニール、こいつは暑苦しいあほな性格だが、一途なところは気にいっている。・・・・あまり、興奮すると心臓に悪いから落ち着け。ライル、ニールを殴ることは許さない。殴るなら俺にしろ。これは、弱っているからダメだ。」
間に割り込んで、刹那がニールを庇う。マイスターをリタイヤしてからトレーニングもやってないニールに、ライルの暴行なんてやらせるわけにはいかない。下手をすると怪我をさせる。
「刹那、もしかして、俺は兄さんの代わりのセフレだったのか? 俺より大事なことって、兄さんのことか? 」
自分を待たずに降りた理由が、それなら、とんだ茶番だ。同じ顔だから、代わりにされたと思ったら、余計にムカついた。一発殴ると、背後のニールにぶち当たり、一緒にひっくり返った。
「代わりだと? ニールは、俺のおかんだ。おまえとは違う。俺は、ニールに欲情したことはない。ニールだって、そうだ。こいつの旦那は別にいる。」
だからぁー、と、転がったままのニールが脱力する。確かに、同居しているが、どっちもノンケで、そういう気になったことはない。
「じゃあなんで? 待っててくれなかったんだよっっ。俺なんか必要ないんだろ? 」
「どうせ追い駆けてくると思っていた。それに、こいつは、半年ずっと、俺たちの無事を按じてくれていたんだ。先に無事な姿を見せるべきだった。おまえとは、この先もずっと一緒なんだ。少しぐらい離れても問題ないだろ?」
「え?」
「ニールは、ここから動けない。組織に戻ることもない。だが、おまえは、これから、ロックオン・ストラトスとして俺の補佐をするんじゃないのか? 」
「・・・する・・・・けど、兄さんだってっっ。」
ようやく発言できそうだと、ニールが刹那の肩に手をかけて身を起こす。昔取った杵柄というやつで、受身は取れたが、筋肉のない背中や尻は、ずきずきと痛い。
「俺はな、ライル。アイルランドへも帰れないんだ。宇宙なんか、とても無理なんだよ。」
長時間の移動や気圧の変化に身体が対応できない。だから、どこかへ行くことも、マイスターに戻ることも無理だと診断されている。それらを説明したら、ライルが膝をついた。
「なんで? 」
「まあ、いろいろとあって。・・・・負のGN粒子を大量に浴びてるのが一番の理由らしい。」
「・・・・・・あの男は殺した。・・・・・兄さんのこと、知ってたよ。」
「・・・・ああ、うん。・・・・それでな、いろいろと無茶をしたからさ・・・・」
「何にも言わないしさ。勝手に金だけ振り込んで、挙句の果てに、メンテナンスの面倒なガソリン車なんて送りつけてさ。・・・・・あんたさ、自分勝手すぎんだよっっ。なんで、一度も逢ってくれなかったんだよっっ。」
「・・・・テロリストの兄なんて迷惑なだけだろ? それに、逢うと俺もグラつきそうだったしな。」
「俺だってカタロンに入ってたよ。あんたと一緒だっっ。あんたと同じらい人だって殺してる。」
「うん、そうなんだけど、知らなかったんだ。おまえ、平和に暮らしてると思ってたからさ。おまえの情報を調べてもらって驚いたよ。それで、おまえを刹那に面通しさせて組織に連れて来させたんだ。」
「それならそう言ってくれよ。」
「・・・・ごめんな・・・・・」
「もしかして、みんな、知ってたのか? 」
「・・・うん・・・・」
「格好悪いなー。ものすごく、八つ当たりしちまったよ。」
「まあ、いいじゃないか。」
ゆっくりと距離を詰めて、刹那ごと、ライルは抱く締めた。自分と同じ容姿だが、自分よりはほっそりとしている身体が、マイスターでなくなったという事実を物語っている。
しばらく抱き締めてから、「それで兄さんと刹那は、肉体関係はないわけ? 」 と、切り出されて、刹那とニールは脱力する。どっかの仮面ストーカー並のKYだ。
「ねぇーよ。刹那は、弟みたいなもんだ。」
「ニールは、おかんだ。・・・・ニール、大丈夫か? 心臓は。」
「あのな、刹那。俺、これぐらいじゃ心臓は止まらないから。・・・・ライルなんかでいいのか? アザディスタンのお姫さんは? 」
「あれは姉みたいなものだ。こいつぐらい積極的でないと、俺はダメらしい。」
「・・・・そう・・・・俺、ものすごく複雑だよ。」
「気にしなくていい。これで、あんたは本当に俺のおかんだ。血が繋がったからな。」
「刹那君、それ、ちょっと間違ってる。」
「ちょっ、そこっ。いちゃいちゃしないでくれよっっ。刹那は、俺のダーリンなんだからな。」
三人で、ごちゃごちゃと小競り合いをして笑っている。ひとりじゃない、というのが、ライルには嬉しかったから、余計に兄に八つ当たりちっくに文句をぶつけているし、それがわかっているからニールのほうも謝っている。刹那は、そんなライルが可愛いとか思っているし、それを流しているニールを、さすが、俺のおかんと尊敬の眼差しを向けている。自分だったら、ぐだぐだとライルにやられたら、確実にぶっ飛ばしているからだ。
それを、寺の回廊から四人は見守っていた。もちろん、撮影隊は、ヒルダたちによって境内のあちこちに隠れている。
「なかなか涙の再会というものになりませんねぇー。」
「ニールもライル君も、いい年ですからね、ラクス様。」
「同じ服だったらわかんないよ。」
「あんだけ似てると気味が悪いな。」
まあどうやら殴り合いには発展しそうにないから、安心して居間に戻って、先ほどの続きのお茶会に戻る。
「三蔵さん、ニールたち、しばらく引き取ろうか? 」
「いや、別に構わねぇーよ、トダカさん。・・・・キラ、アスランはどうした? 」
「今日はラボなんだ。エターナルを、いつ降ろすかで、虎さんと相談。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物3 作家名:篠義