【カイハク】死が二人を分かつまで
「熱心ですね、マスター」
「喋んな」
ぴしゃりと言われて、カイトは肩を竦める。
ルビーは宿に届けられた分厚い資料を素早くめくりながら、書かれた内容を頭に叩き込んでいった。
サファイアの研究内容から、彼女がかなりの実力を持った魔道士であることが分かる。
事故を起こした儀式は難しいものではなく、通常なら考えられないミスを犯していること、儀式にはジェードも立ち会っていたことを知った。
ルビーは、ふっと息を吐いて顔を上げると、
「あんた、この為にハクに近づいたの?」
紅茶を淹れていたカイトは、ルビーの方を向き、
「絶対、そういう誤解が生まれますよね。だから、この仕事は嫌なんです」
そう言って、溜息をつく。
「ハクさんにまで誤解されたら、どうしてくれるんですか。全く」
「・・・・・・本気で好きなの?」
ルビーは目を細めると、カイトを睨みつけた。
「対象に余計な感情を持って、それでちゃんと調べられるの?あんた、あたしに何か隠してるんじゃ」
「だったら、マスターが僕の相手をしてくれますか?」
突然カイトに抱き締められ、ルビーは声も上げられずに硬直する。
「冗談ですよ。びっくりしましたか?」
カイトは笑いながら、すぐにルビーを解放した。
言葉もなく立ち尽くすルビーに、カイトは微笑みかけ、
「人間は身勝手ですね。惚れられて困るなら、最初から心を与えなければいいのに」
指先で空に複雑な文様を描く。
「そんな身勝手な存在は、消えてなくなればいい」
カイトの描いたものが、召還用の魔法陣だと気づき、ルビーはぎょっとして身構えた。
何事もなかったかのように微笑む淡い瞳を睨みながら、
「もしかして、最初から知ってたんじゃないの?」
「何をですか?」
「ジェードのこと。彼を知っていて、わざと仕向けたんじゃないの?」
「まさか」
カイトは声を上げて笑うと、
「僕は、神様じゃありませんからね。後手に回ることもありますよ」
だが、ルビーは身じろぎせずに、カイトを睨み続ける。
本当にそうだろうか?
淡い色の瞳は、底を見透かさせない。
時折、ルビーはカイトを疑うことがあった。
この人形自体が、底知れぬ深淵なのではないかと。
強すぎる魔力は、人の心を狂わせる。
カイトと長く関われば、自分も深淵に見つめ返されているのではないかと。
「・・・・・・ハクを、悲しませることになるわよ。マスターを、二人も失ったら」
「そうですね」
カイトは視線を宙に向けると、
「もっと早くに出会えれば良かった」
独り言のように呟いた。
「事故が起こる、ずっと前に。そうすれば、あの人を傷つけることもなかったのに」
作品名:【カイハク】死が二人を分かつまで 作家名:シャオ