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【カイハク】死が二人を分かつまで

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「ハク、来てくれ」

ジェードの声に、カイトとのデートを夢想していたハクは、慌てて我に返る。

「はい、ただいま」

声を掛け、急いで書斎の扉を開いた。
中に入ってすぐ、机の上に置かれた精巧な燭台に、目を奪われる。繊細な彫りと飾りが、日の光を反射して複雑な陰影を描き出し、装飾品としても最高級の物であることを示していた。
声もなく見つめるハクに、ジェードは満足そうに頷き、

「私の研究も、後一歩で完成する」
「あ・・・・・・あ、素晴らしい出来映えだと思います!これが完成すれば」
「そう、これが完成すれば、最高位の魔物を召還することができる。私は、魔道士の頂点に立てるのだ」
「え?」

ハクは戸惑いながら、ジェードの顔を見る。

「え?あの・・・・・・あの、この魔道具を、皆様に使って頂くのですよね?これが完成すれば、儀式中の事故で亡くなる方もいなく」
「お前は、相変わらず欲がない」

ジェードは微笑み、机の上からナイフを取り上げた。
ハクは、ぎこちない様子でジェードの手元を見つめる。
手紙を開封するには、随分頑丈そうなナイフだと思いながら。

「サファイアには感謝している。自らの身を捧げるだけでなく、お前という無垢な人形を残してくれたのだから」

腕を掴まれてもまだ、ハクは夢を見ているのだと思っていた。
目が覚めたら、いつものようにジェードの書斎にコーヒーを運び、食事に手をつけていないことを注意して、手つかずのままの盆を下げる。

「私の研究を完成させる為だ。お前も嬉しいだろう?」

ナイフを振り上げられても、その切っ先にぼんやりと視線を向けただけで、身じろぎすらしなかった。
もうすぐ日が落ちるから、カーテンを閉めて、夕飯の支度に取りかかろう。そして、ジェードに夢の内容を話すのだ。きっと、笑ってくれるから。


これは、全部、夢だから。



不意に、誰かの腕が背中に回された。

「女性に対する振る舞いとしては、感心しませんね」

顔を上げれば、カイトの淡い色の髪が目に入る。
伸ばされた手がナイフの切っ先に触れていることに気づき、ハクは初めて声を上げた。

「か、カイトさん!手が!!」
「ありがとうございます。自分のことよりも先に心配してくれるなんて、ハクさんは本当に優しい方ですね」

ジェードはナイフを降ろし、二・三歩後ずさる。

「そうか。お前はクリソプレーズの」
「『クリスと呼びなさい』と、言われませんでしたか?」

微笑むカイトに背を向けた瞬間、ルビーが行く手に立ちふさがった。

「観念しなさいよ。あんた、それでも魔道士?」
「会えて嬉しいよ、お嬢さん。君が人生から教訓を学ぶには、もう少し時間が必要だろうね」

ジェードはそう言って、宙に魔法陣を描く。
複雑な文様が青白い輝きを放ち、ルビーは身構えた。
その隙を突いて、ジェードは庭に通じる窓を開け、外へと飛び出していく。

「あっ!!なっ!?」
「どうして騙されるんですか、マスター?」
「うっさい馬鹿!!」

捨て台詞を吐いて、ルビーも庭へと飛び出していった。
呆然と二人を見送るハクに、カイトが、

「色々聞きたいこともあるでしょうから、別の部屋に行きましょうか」
「あっ、はい。えっと、こちらにどうぞ」

穏やかに促され、ハクは訳が分からぬまま、カイトを客間へ連れていった。