【カイハク】死が二人を分かつまで
帰り道をハクは早足で戻る。
恐らく、ジェードは食事を取っていないだろうから、戻って注意しなければいけない。
自分のマスターに苦言を呈するのは気が重かった。サファイアを失った重みが、ハクの心にのし掛かる。
向かいから歩いてきた男性を避けようとしたら、突然目の前に花束を突きつけられた。
「あっ、えっ?」
驚いて足を止めると、目の前の男性は魅力的な笑顔を浮かべて、
「結婚してください」
「は?あ、え?あっ、ど、どなたかとお間違えでは」
「いいえ、間違いではありません。貴女の顔を、見間違えるはずがありません」
淡い色の髪と目をした男性が、自分と同じ人形だということだけは、ハクにも分かる。
しかし、その顔には見覚えがない。
「えっ、あっ、あのっ、しょ、初対面・・・・・・です・・・・・・?」
しかし、本当に初対面なのか、改めて考えると自信がなかった。
サファイアが生きていた頃は、多くの魔道士と親交があり、彼らの連れていた人形とも顔を合わせている。その全員を覚えているかと問われたら、ノーと言わざるを得ない。
「あ、あの、ごめんなさい、何処でお会いしたのか・・・・・・私・・・・・・」
ハクが必死に弁明の言葉を考えていたら、ぐいっと割って入る者があった。
「私の人形が失礼致しました」
まだ少女と言っても差し支えないくらいの、若い小柄な女性が二人を引き剥がす。
「マスター、お早い到着ですね」
「勝手な行動するなって言ったでしょ!いいから来なさい!!」
少女に手を引かれ、男性は仕方なくといった様子で歩きだした。呆然としていたハクは、腕の中に残された花束に気付き、
「あ、あの、これ」
「差し上げます。またお会いしましょう」
男性が手を振ってきたので、反射的に振り返す。
「あっ、えーっと、ああ・・・・・・」
二人の姿が角を曲がって見えなくなるまで、ハクはその場に立っていた。
作品名:【カイハク】死が二人を分かつまで 作家名:シャオ