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【カイハク】死が二人を分かつまで

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ルビーは、懐中時計に目を落とし、

「じゃあ、二時間後にまたここで」
「はい、マスター」
「目的を外れるんじゃないわよ。遊びに来てるんじゃないんだからね」
「分かっています」

にこにこと笑うカイトを睨みつけてから、ルビーは薬局へと向かう。
扉を押して中に入れば、軽快なベルの音とともに中年の女性が現れた。

「はい、いらっしゃい」
「あのう、お母さんが、昨日から頭が痛いって言ってて、私達、この町には観光の途中で寄ったものですから、お医者様とかよく分からなくて」

ルビーは、眉を寄せて、潤んだ瞳を女性に向ける。中身がどうだろうと、周囲の人間はまず外見で判断する。そのことをルビーは理解していたし、利用する術も心得ていた。
案の定、女性は大げさな身振りで同情を現すと、

「それは大変ね。お母さんは、今休んでるの?」
「はい。宿で横になっています。昨日の夜は、あんまり眠れなかったみたいで」
「そう、お気の毒に。お母さんは、何か他にお薬を飲んでる?」
「いいえ、何も。お母さん、いつもは「寝ていれば大丈夫」って言うから」

細かく聞いてくる店員に、架空の病状を説明しながら、ルビーは少しずつ、この辺りの噂を聞き出していった。
曰く、三件隣のアパートに新しく越してきた夫婦がボヤ騒ぎを起こしたとか、向こうの角にある帽子屋の主人は無愛想だが腕がいいとか、雑多な情報に耳を傾けるルビー。
延々続く噂話が、何時しか女性店員の身の上話に移った辺りで、ルビーは失礼にならないように話を遮り、礼を言って薬局を出た。

次の店に移る途中で、カイトが、あちこちのショーウィンドーを物珍しげに覗いているのに気が付く。一瞬怒鳴りつけてやろうかと考えたが、カイトの好きにさせておくことにした。


『猟犬が藪を嗅ぎ回っている時は、好きにさせておくのが一番よ』


クリソプレーズの悪戯っぽい言葉に、どれくらいの信憑性があるかは疑問だが、カイトを連れていけと言ったのは彼女なのだし、きっと思うところがあるのだろう。
ルビーは、カイトのことを意識から追いやると、別の店へと向かった。



二時間後、へとへとになったルビーは、待ち合わせ場所のベンチに腰を掛ける。

「お疲れのようですね、マスター」

妙に上機嫌なカイトを怒鳴る気にもなれず、ルビーはベンチにもたれ掛かると、

「全く、何だってこう噂話が好きなのかしらね、ああいう連中は」
「一番の娯楽だからでしょう」
「隣の奥さんが紫色のスカーフを買ったからって、あんたに何の関係があるんだと言ってやりたいわ。まあ、分かったのは、それ以上の事件はないってことね」
「平和でなによりです」
「なによりだけど、収穫はなかったってこと。大体、あたしはこういうの向いてないのに」

ひとしきり文句を言った後、ルビーはカイトに、何か分かったかと聞く。
カイトはにっこり笑って、

「僕にはありましたよ。やはり彼女は、僕の運命の人です」

一瞬ぽかんとした後、ルビーは目尻をつり上げ、

「関係ないこと調べてんな!!目的から外れるなって言ったでしょ!!」
「僕にとっては、最重要項目ですよ」
「知るか!!この役立たず!!」