【カイハク】死が二人を分かつまで
日も落ち、滞在客が次々と宿へ戻ってくる。
賑やかなホールを抜け、ルビーは真っ直ぐに部屋へ戻った。自室の鍵を差し込み部屋に入れば、ベッドに腰掛けていたカイトが出迎える。
「お帰りなさい、マスター」
「ただいま。一体どこをほっつき歩いてたのよ、あんたは」
ルビーはぶつぶつ言いながら、カイトが差し出した椅子に腰を下ろした。
「見込み違いだったかなあ。明日も駄目だったら、一度戻るか」
「僕、明日はハクさんとデートですから。戻るなら、マスターお一人でどうぞ」
「は?」
ルビーは勢い良く立ち上がると、
「あんたね!勝手なことするなって言ってるでしょ!!今は、あたしがマスターなんだから!!」
「マスターこそ、人の恋路を邪魔しないで下さい」
「真面目にやらないなら、縛り上げてでも連れて行くわよ!?」
その剣幕に、カイトは溜息をついて、
「・・・・・・手の掛かるマスターですね。このくらい、ご自分で調べて欲しかったです」
そう言って、今日、ハクが郵便局へ荷物を出しに行ったことを話す。
「だから?」
「その荷物が、お探しの物ですよ」
カイトの言葉に、ルビーは一瞬ぽかんとしてから、我に返って声を上げた。
「どういうこと!?分かってて見逃した訳!?何でその場で取り返さないの!!」
「だって、空っぽですから」
ハッと息を飲むルビーに、カイトは呆れた様子で、「それくらい、予想しておいて下さい」と言う。
「なっ、だって、な、何でそんなことが分かるの!取り返してもいないのに!」
「宛先を見るくらいは、してます」
「だったら!今直ぐ行けば、先回り出来るじゃな」
「嫌ですよ。雑貨屋とか興味ないですし」
「・・・・・・どういうこと?ちゃんと説明しなさい」
ルビーの言葉に、カイトは肩を竦めた。
「マスター、相手の身になって、良く考えて下さい。曰く付きの品物を、自分の自宅に届けさせたりはしないでしょう?宛先は街角に良くある雑貨屋で、頼めば荷物の受け取り場所にもなってくれるような店です。問題はそこに取りにくる人物ですが、僕達には関係ありません。他の人に任せておきましょう」
「・・・・・・つまり、目的はハクのマスター?」
「むしろ、邪魔者ですね」
カイトはくすくす笑いながら、上目遣いでルビーを見る。
「マスターは、僕から彼を守る必要があるかも知れませんよ?」
その言葉に、ルビーは首筋に薄ら寒いものを感じた。
カイトを作った異形・・・・・・戯れに人の世界に現れた魔物と対面した時のように。
『こいつを使う時は、気をつけるんだな。取り込まれるぞ』
目も口もない魔物は、確かに声を発し、にやりと笑った。
強すぎる魔力に魅入られ、堕ちていく魔道士の話は、ルビーも嫌になるほど聞いている。
あたしは、深淵に飲み込まれたりしない。
キッとカイトを睨むが、薄い青の瞳は、唯笑い返すだけだった。
作品名:【カイハク】死が二人を分かつまで 作家名:シャオ