こらぼでほすと 拾得物4
ニールだって、キラや沙・猪家夫夫の会話なら、スルーできる。ただ、身内だと、そうもいかないだけだ。
「もっと、こう・・・・相手が、普通の女性なら、俺もスルーできるんですよ。」
言いたいことはわかる。例えば悟空が、三蔵の身内を恋人だと連れてきたら、こうなるだろう。まあ、身内はいないから、その心配はないが。
一ヶ月ちょっと、ヴェーダの居住区で暮らしているアレルヤは、比較的のんびりとしていた。まだ、ティエリアの素体は、小さくて、そこへ入るのは無理なほどだからだ。
「ライルが合流したぞ、アレルヤ。」
「ああ、そうなんだ。よかったね、ニールと再会できて。」
「てか、大丈夫なのか? ニールは。あほライルと刹那の会話は、破壊力があるぜ?」
「僕には、刹那・F・セイエイの好みが、今ひとつわからないよ。ライルよりニールのほうとくっつけばよかったんじゃないの? 」
もちろん、ハレルヤも一緒だし、リジェネも立体映像で、その場にいる。
「バッカ、リジェネ。ニールは、おかんなんだよ。刹那にとっては、それ以外じゃねぇーんだ。」
「あれはね、リジェネ。ライルの押し勝ちなんだ。刹那は、それに折れたが正解。まあ、可愛いって言うから、それなりに愛情はあるんだろうけどさ。」
「ニールの独占など、俺は認めない。あれは、俺たちのおかんだ。」
「ティエリア、僕らには、おかんなんていないんだけど? 」
「俺にはいる。おまえにはいないだけだ。」
四人での会話も、こんな調子で、暢気なものだ。もう一ヶ月ぐらいしないと、言語すら操れない素体では降りる意味がないと、ティエリアも考えている。せめて、自力歩行できて、言語が扱えるまでの素体に培養しなければ、どこにも行けない。目を閉じて意識を断ち切っていれば一ヶ月なんて、あっという間なのだが、アレルヤたちがいるから、それもできない。だが、こののんきな会話を楽しんでもいる。残念なのは、アレルヤの手料理が食べられないことだ。それに触れ合うこともできない。
「ティエリア、なに? 」
じっと押し黙っていたら、アレルヤが声を掛けてくれる。
「意味はないんだが・・・・おまえの淹れてくれるコーヒーが飲みたい。」
「うん、それなら、用意するよ。カフェオレでいい? 」
「ああ。」
立体映像の自分には、それを持ち上げることも飲むこともできないのだが、真似だけでもしたくなった。アレルヤは、ちゃんと三人分のカフェオレを用意して机に置いてくれる。
「あれ? 僕のも? 」
「うん、リジェネもね。匂いぐらいはわかる? 」
「中身も分析はできる。ただ飲めないんだよね。・・・・あー、僕も素体作ろうかなあ。こういうのは不自由だ。」
くんくんと、机に置かれたマグカップに顔を近付けて、リジェネは、その香りを楽しんでいる。ティエリアは、持つ真似をして微笑む。ただ、それだけだが、なんだか、ほっとするのだ。
黒猫は、放置するとサプリメントで食事を済ませてしまう傾向にある。栄養素としては同じだ、というのだが、そういうもんじゃないだろう、と、親猫は思う。さらに、双子の弟は料理はできないと判明している。ずっと、学生時代は寮生活だったから、料理を作る機会がなかったらしい。就職してからも、外食だったから、栄養面からすると偏っていそうな気がする。
・・・・・手っ取り早く野菜を食べさせるなら、煮物がいいんだけど。ライル、和食は、あまり食べたことがないって言ってたな。なら、アイリッシュシチューでいいか。それと、温野菜サラダとかマリネぐらいなら、何日か保つよな?・・・・・・・・
うーん、と、洗濯物を干しつつ、ニールは献立を考える。余分に作って配達するぐらいなら、アッシーがあれば問題はない。ニールには、何人かのアッシーがいる。
「・・・ハイネ? 今、どこ?・・・・うん・・・うん・・・・・夕方には戻ってくんのか? なら、ちょっとアッシーしてくれよ。え? ・・・・・ああ、刹那のとこ。あいつらさ、メシの仕度とかできないから配達してやろうと思って・・・・・うん・・・・じゃあ、よろしく。」
それを、たまたま通りかかって聞いた悟空が、それはダメだろう、と、すかさず刹那の携帯端末へ連絡をいれたが繋がらない。マンションの電話は解約してあるので、こちらも無理。同じマンションのキラに連絡したら、こちらは歌姫とデート中だった。
しゃあねーなー、と、八戒に連絡したら、こちらは繋がった。八戒は、マイスター組管理者だから、マンションのカードキーの予備を持っているのだ。
「え? 様子を見てきてほしい、ですって? 悟空、それ、正気の頼みごとですか?」
「だって、ママが行って、びっくりするよりマシだろ? 夕方になったら普通にしてろって伝えてくれれば、刹那はそうするからさ。」
どう考えても、まだ一日と経過していない現在、とんでもないことになっていることは予想に違わない。なぜ、その部分を軽くスルーして、食事の配達をしようとするのか、まあ、いいのだ。そういう人なのだ、ニールという人は。それで、ショック受けて帰ってくるのも、間違いないわけだから、悟空も必死だ。
「あのね、悟空。五日後なら、僕も行ってさしあげますよ。でも、初日はイヤです。」
え? 三日ぐらいじゃね? と、背後で悟浄がツッコんでいるのに、三日目なんて全裸死体状態ですよ、と、八戒は容赦なくツッコミ返している。そして、あーと想像がついたのか、悟浄も沈黙した。
「でもさ、うちのママ、あんまショック与えないほうがいいだろ? 」
「ハイネだって判ってますよ。たぶん、行かせたりしませんから安心してください。」
もちろん、ハイネも、それは理解しているだろう。やめろ、と、止めたに違いないし、よしんば、クルマを出したとしても目的地は変更するに違いない。
連絡を受けたハイネはラボにいた。ヘリの整備をしていたのだが、これも暇つぶしだから、慌てることもない。ママニャンが、なんか恐ろしいことを言ったので、とりあえず、阻止だろうな、と、暇そうなところへ連絡する。
「レイか? 今どこだ? ・・・・ああ、悪いんだけどさ、おまえ、寺へ行ってママが勝手に出かけないように、それとなく相手しといてくれ。・・・・・お? ママがな、せつニャンのとこへ差し入れに行くっていうからだよ。・・・・おお・・・・俺、夕方に戻るから。頼む。」
で、まあ、どういうわけだか、鷹も暇つぶしにMSの整備を手伝っていたから、その場にいた。
「俺、阻止しといてやるよ。ハイネ。」
「あー行ってもいいけど、ヘリは、まだ旋回羽根を分解したままだから飛べないぜ? 」
ハイネは移動用のヘリの整備をしていたので、これを組み立てないと移動できない。予備のヘリは歌姫のところだから、ラボには、これしかないのだ。
「そういうことなら、さっさとやろうぜ。・・・・てか、ママ・・・・見たいのか?」
実弟と黒猫の絡みなんてものを見たいのか、と、鷹は考えたらしい。まあ、あまり目にするものではないだろう。俺は、あの身長差のある絡みは、後学のために拝みたいねーなんて自分の希望を述べたりする。
作品名:こらぼでほすと 拾得物4 作家名:篠義