こらぼでほすと 拾得物4
「ちげぇーーーよっっ。せつニャンとライルが腹を空かしたらダメだって言うだけだ。」
「なんで、その時の遭遇リスクを忘れるかねぇーママは。」
「そういう素ですっとぼけるのが、悪い癖なんだよ、あいつは。」
とりあえず、急ぐぜ、と、ハイネは分解していた部品をチェックして組み立てる準備をする。分解掃除するほどのことでもなかったので、掃除は軽くに変更する。鷹も、そういうことなら、と、手伝い始めた。
大鍋ぐつぐつで、ふんふんと鼻歌交じりに料理をしているニールの横には、ハイネに頼まれて飛んできたレイが、へばりついて手伝っている。年少組が唐突に遊びに来るのは、毎度のことだから不審ではない。
「レイ、なんかリクエストはないのか? 」
「みかんゼリーが食べたいですが、手間はかかりませんか? 」
「ああ、大丈夫だよ。デザートは、それにしよう。白桃ゼリーも作ろうか? 」
「ええ、ぜひっっ。」
刹那が好きなんだよなあーと、乾物置き場からみかんと白桃の缶詰を取り出して、ニールは、そう言うので、レイは内心であわわわわわ・・・と、動揺した。それを運ぶのはやめてください、と、言ったところで聞いてくれる相手ではない。料理が仕上がったら、絶対に、アッシーしてくれ、と、頼まれるに違いない。
「シンは? 」
「今日は、実家です。」
トダカ家で親子水入らず日であるらしい。だから、レイひとりなのだ。こういう時は、よく寺へ来る。
「おまえさんも、たまには帰って来いよ。」
「二週間ほどプラントに帰ってました。」
「ああ、そうなのか。」
だが、自分の保護者は、キラを構うので忙しかったし、それを阻止するので、シンと二人で走り回っていたから、のんびりした帰郷というものではなかったけど、と、内心で付け足す。
小さなお鍋と大きなタッパーが三個、台所で準備される頃に、ようやくハイネが帰って来た。よおう、と、三蔵に挨拶して台所へ入ってくる。その背後には、鷹も一緒だ。
「荷物できてるか? 」
「ああ、悪いな、ハイネ。」
「いやいやいや、今日はアッシーじゃないんだな、俺は。鷹さん、これらしいぜ。レイ、荷物運んでくれ。」
「はいはい、エンディミオン宅配便をご利用いただき、誠にありがとうございます。メシ残しといてくれよ? ママ、戻ってくるからさ。」
芝居ががったお辞儀なんかして、鷹は、タッパーを袋に詰める。俺も行きますよ? と、ニールが声をかけると、ダメダメダメとレイが首を横に振る。
「俺が助手をしてきますからっっ。ママは、やめてください。」
「へ?」
まだ、事態を把握してないんだねー、と、ハイネは笑っている。
「あのさ、ママ。・・・・あいつらは、いちゃいちゃするためにマンションに戻ったんだろ? だから、こそっと冷蔵庫に、それを放り込むだけでも、現場目撃する可能性が高いんだよ。わかる? 」
噛み砕いて丁寧に鷹が説明すると、ニールの顔は、みるみる真っ赤になる。ようやく気付いたらしい。マンションのマスターキーを取り出して、レイに手渡した。
「すぐに戻るよ。」
鷹とレイは、その荷物を持って出て行く。うわぁーうわぁーと意味不明の言葉を唸っているニールは、台所へ放置して、ハイネは卓袱台の前でタバコを吸っている三蔵の横に座りこむ。
「ご苦労、間男。」
「ちょっとは動けよ。あんたが旦那だろ? 三蔵さん。」
「俺の代わりに悟空が動いていたさ。・・・・・おまえら、ほんとに暇だな? いちいち金髪アッシーが総出するほどのことかよ? 」
「メシ食ったら、人生ゲームしようぜ? それくらい暇なんだ。」
ヘラヘラとハイネは笑って、新聞を広げて寝転ぶ。もうすぐ、店の改装も終わるので、この暇も、それまでだ。いや、暇じゃなくても、寺へは頻繁に顔を出すつもりではあるのだが。
俺が、ヴェステンフルス急便をやってやるから、と、ハイネが、寺へ居候を決め込んだので、直接、接触することもなく寺から定期的にマンションへ食事は運ばれた。
一週間ほどして、お肌ツヤツヤの刹那とライルが戻ってきた。タッパーとか鍋とかが溜まったから返却に来たらしい。
「うまかった。」 と、挨拶しようとしたら、生憎と親猫はダウンしていた。明日から、降水確率100パーセントであるらしい。
脇部屋に顔を出したら、だらだらと寝込んでいる。大したことではないので、喋るぐらいは普通だ。
「雨か? 」
「そうらしいな。・・・・・ちょっと頼まれて欲しいことがあるんだが、いいか?」
なんだ? と、刹那が返事したら、手にカードを載せられた。キラの誕生日に店に届くように花を注文してほしい、という頼みだった。
『吉祥富貴』は改装後オープンとキラの誕生日パーティーを合体させて派手に再開することになった。 だから、日曜日は、午後から開店して、真夜中越えのキラの誕生日でお開きになるということになっている。そして、月曜日を休んで火曜から通常営業になるという運びである。
キラに欲しいものなんて尋ねたところで、あんまり意味はない。欲しいと思った途端に、キラの旦那とか、歌姫とか、姉におねだりして貰ってしまうからだ。まあ、それでも、拾われたニールとしては、それなりに感謝は感じているので、花を贈ることにしている。鉢もの、花籠、花束、その時、花屋で目に付いたものにしていたのだが、雨で出かけられないなんてことになってしまった。予算とか、店の住所とか、それらをメモにして、刹那に渡す。
「俺には、美的センスがない。いいのか? 」
「それはそれで、キラが喜ぶんじゃねぇーか? おまえと俺の連名にしとけ。」
刹那が選んだと判ったら、キラはサプライズとして喜ぶだろう。それが、不思議な可愛くないサボテンでも問題はない。相手も、天然電波さんだ。普通の感性ではない。
「俺は? てか、兄さん、大丈夫なのか?」
ぐてーとナマケモノモードで伸びている兄を見るのは初めてで、ライルとしては焦る。
「あー全然、問題ない。身体がだるくて起きられないってだけだ。」
「いや、問題だろ? それ。医者は? 」
「いつものことなんだ。・・・・明日の午後には楽になるから大丈夫だ。」
こればっかりは治るものではないので、気楽に付き合っているのだと、ニールは苦笑する。新陳代謝が悪いから、気圧変化や温度差に身体が対応しないからだ。五年近く付き合っていると、もう、いつぐらいに悪くなるか天気図を見ただけでわかる。だから、すでに、二日分の食事関係は作ってある。後は、当人は寝て、低気圧が行き過ぎるのを待っていればいい。
「何か、食べたのか? 」
「悟空が、学校行く前に、おかゆとお茶を運んでくれたよ。」
そこに、と、指差したところに、それらは置いてあるが、手をつけた形跡はない。すでに、昼前だから、数時間前から放置されている様子だ。
「あれ? 刹那、来てたのか? 」
脇部屋の障子が開いて、シンとレイが顔を覗かせた。手に、いろいろと持っている。
「ニール、とーさんから差し入れ。」
「それから、八戒さんから漢方薬です。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物4 作家名:篠義