こらぼでほすと 拾得物5
カチンとグラスを合わせて、鷹は苦笑する。マイスター組が無事に生き延びたし、組織も存続が確定だし、世界は、今とは違うものにする変革は誘発された。悪いほうに向かえば、組織が武力介入するだろうし、ヴェーダも黙っていないだろう。
「後は、紫猫とオレンジ猫が降りてくれればな。ママも安堵するだろう。・・・・しかし、見れば見るほど、良く似た双子だ。」
お祝いの乾杯の輪には、親子猫たちも含まれている。刹那の両隣に同じ顔で同じ衣装の人間が並んで、グラスを傾けている。
スタッフ全員が飲み終わる頃に、「それでは、ミーティングを開始します。」 というアスランの掛け声で、静まり返る。
「ライルのお披露目をしますから、もし、お客様から声があれば、ライルを呼んで紹介してださい。ニールのお客様には、ニールのほうから紹介を。・・・・・・うちの身内以外のお客様は、十一時までに、気持ち良く退席いただけるようにしてください。身内は、放置してでも、そちらを優先で。・・・・・虎さん、ダコスタ、ヘルプをお願いします。本日は、八戒さんの施術のほうは、ショートプログラムのみ受付です。延長なしなんで、それは説明してください。」
てきぱきとアスランの、今日の予定とか注意事項なんかが説明される。それを聞きつつ、もう、あれから五年なんだなあーと、ニールと刹那は顔を見合わせた。自分たちのお披露目も、キラの誕生日の席だったからだ。
いつもの時間に、ちらほらとお客様は現れて、キラにお祝いの言葉と、店の内装を褒めて楽しんでいる。前回は、重厚な欧州風の雰囲気だったが、今回は、少し軽く南欧風の色合いになっている。壁や床、カーテン、家具なども、明るい色目のものになっているから、がらりと雰囲気は変わっていた。
「ママ、ちょっと。・・・・・せつニャン、ママ借りるぞ? 」
鷹が、ニールの腕を掴んで奥へ引っ込んだ。たぶん、休憩なんだろう、と、刹那は、そのままスタスタと歩いている。お客様に、順々に挨拶して、ライルを紹介するのが、本日の仕事だ。マイスター組は現役続行ではあるが、地上に降りてくれば、こちらで過ごすことになるわけで、そうなると、もれなく、このバイトもついてくるのだ。
「刹那、僕らと一緒に挨拶しよう。おいで。」
無口黒猫と新人の取り合わせでは、碌なことはないから、気を利かせて、キラと歌姫が現れた。
「すまない、キラ。」
どうも対人交渉というのが、刹那は苦手だ。こういうことは、大概、親猫がやってくれるから、上手くならない。
「気にしないでいいよ。こういうのは、慣れらしいから。・・・・喉渇かない? 」
そろそろ、十時だ。夕方に軽く詰めたが、小腹が空く時間である。まあ、後一時間ちょっとで、お客様は帰るから、それから詰めるか、と、刹那は思っている。
「キラ、おまえ、いくつになるんだ?」
刹那の左側のライルが、そう質問する。
「24だったかな。」
「見えないなあー、刹那と変わらなく見えるよ。」
「やだなー、ライルは。僕を褒めたって、何の得もないのに。」
褒めてるんじゃなくて、事実だぜ、と、ライルは笑っている。五年前からキラも歌姫も、あまり年取ったという印象はない。どちらかと言えば、自分とかライルのほうは、それなりの年齢を重ねたな、と、思う。
「あなたは、とても小さくて可愛かったですものね。五年で、こんなに育つなんて・・・・」
歌姫も、クスクス笑っている。そこへ、お客様が声をかけてきたので、営業用スマイルで振り返るところが、プロというものだ。時間まで、接客して、送り出すと身内だけが店に残っていた。歌姫のスタッフが、サーヴしていた料理や飲みものを新しい物に取り替える。ゆっくりと、真夜中への時間を楽しんで、直前からカウントダウンを開始する。
・・・5・・・・4・・・・3・・・2・・・1・・・・・
で、普通は、ここで、ハッピーバースデイと全員で叫ぶところだが、それはしない。一番は、アスランと決まっているからだ。じっと、その瞳を覗きこんで、アスランは微笑む。
「ハッピーバースティ、キラ。また、今年も無事にきみが生まれた日を祝えることが、俺は嬉しいよ。」
チュッと、バードキッスをしてアスランが祝う。チュッとお返しして、キラも微笑む。この時間が無事に持てたことは、本当に感謝すべきことだ。今年は、いろいろとバタバタしていて、無理かもしれない、と、思ったほどだった。
「僕も。今年も、一番にお祝いしてくれて、ありがとう。」
それが終わると、今度は歌姫だ。アスランが、キラの背後で待っている歌姫にウインクすると、そちらにクルリとキラの身体を回した。
「キラ、おめでとうございます。今年も、あなたと幸せに過ごしたいです。」
歌姫様は、キラのほっぺにちゅっとキスする。もちろん、キラも同じ場所にお返しだ。
「ラクス、ありがとう。僕も、きみが幸せである一年を願ってるよ。」
しばらくは、大きな戦いはないだろう。それだけでも、ラクスには嬉しいことだ。好きなことをして、へらへらと笑っているキラを見ているのが、ラクスの一番の癒しだからだ。
ふたりからの祝福が終わって、ようやく、他のスタッフも、「おめでとー」 だの「ハッピーバースデイ」 だのという声がかけられる。
少し騒いでから、大きな二段のケーキが運ばれる。
「きゃうーーんっ、イザーク大好きぃぃぃぃーーーーッッ。」
イチゴのホールケーキだが、ホワイトチョコの細かいものが雪のように散らされて、さらに、ブルーベリーだのラズベリーだのというベリー系の果物が飾られている。キラが好きそうなケーキだ。さすが、イザークと、スタッフも拍手している。
「礼には及ばない。おまえのお陰で、いろいろとやれて俺も満足しているからな。このケーキが、プレゼントの代わりだ。好きなだけ食え。」
それに、ローソクをつけてお決まりの吹き消しで、クラッカーをやらかして、宴も最高潮だ。
ケーキだけは、俺が、と、イザークが手配したのは、そういうことだ。又、いつものように、スタッフたちから、お祝いの品が届けられる。途中で、刹那とディランディーさんたちも届けたが、ものすごく不思議な植物だった。刹那が、キラに渡す、と、「これ、ひょうたん? 」 と、弦上の茎から垂れ下がっているツボみたいなものを、キラがツンツンする。
「ネペンテス、通称ウツボカズラと言うらしい。室内で育てると、虫を捕食してくる優れものだ。」
やっぱり、どっか、美的感覚が狂っているな、と、ニールは苦笑する。キレイではなくて、機能で選んでいる辺りが、刹那らしい。
「へえー、おもしろーーいっっ。刹那って、センスいいよね? これ、かわいい。」
で、天然電波の大明神様の反応も、普通ではないから、あーやっぱりそうなんですねーと、八戒も笑う。そのお陰で、美的感覚って人それぞれだから気にしなくていい、という気持ちにはさせてもらえる。
順番に、プレゼントを貰って、それからケーキを切り分けて、レイがお祝いにピアノを弾いて、和やかなハピバパーティーだった。
作品名:こらぼでほすと 拾得物5 作家名:篠義