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こらぼでほすと 拾得物5

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 刹那の言いたいことは解るのだが、それでは、ライルが不憫だろうと思う。そして、離れたがらない理由が、ニールにあるのも問題だ。

「おまえ、俺についてくるつもりなら、必要ないぞ。・・・・・ちゃんと看護師もいるから看護もしてもらえるんだからな。だから、ライルとさ。」
「あんたには俺が必要だ。」

 どうして、こう頑固なんでしょう? と、ニールもふうと息を吐く。そろそろ、入梅だから、ニールの体調を気にしているのはわかるのだが、それで夫夫喧嘩してもらったら、兄としてもおかんとしても立つ瀬がない。

「俺からライルに連絡しとくから、帰ってきたら、おまえはマンションな? 」

 そして、そのことを、まったく説明していないわけで、ライルが腹を立てるのもわかる。どうしても梅雨の季節だけは、体調が思わしくなくて、梅雨が明けるまでは、歌姫の本宅で世話になる。ティエリアも刹那も、それを知っていたから、組織が再始動するまでは、交代で看護をするために訪れていたからだ。不満たらたらの顔の刹那の頭をぐしゃぐしゃと掻き回して、ニールは携帯端末でライルに連絡を入れた。




 ヴェーダになっちゃったティエリアも、その時期のことは覚えている。だから、それまでに降りたいと素体の培養に力を入れていた。とりあえず、歩けて会話ができればいいということなら、この程度だろう、というところまでは出来上がった。

「アレルヤ、これでどうだ? 俺と認識できるか? 」

 培養カプセルの前で、アレルヤに尋ねる。これでいい、と、言ってくれたら、すぐに記憶のリンクをしてしまうつもりだった。

「どうして、そんな焦ってるの? ティエリア。僕は、ティエリアだとわかるけど・・・・慌てる必要はないでしょ? 」

 目の前のカプセルの素体は、ティエリアの片鱗はある。だが、サイズは、かなり小さい。

「きみは知らないだろうが、ニールは特区の、この季節だけは確実に一ヶ月寝込むんだ。だから、なるべく早く降りて、俺ときみが無事であることを報せないといけない。」

 そうでないと心配して、余計に具合が悪くなるからだ、と、ティエリアは説明する。キラが二ヶ月と期限を切ったのも、そういうことが含まれていた。そうでないなら、ヴェーダとのリンク調整があるから、と、声だけ届けてもよかったのだ。それで、元通りの身体まで培養させて降りればよかったが、時期が悪かった。アレルヤをロストした時は三ヶ月も、うんうんと寝込んでいた。生きていると解っていても、どうしても納得できなかったからだ。

「え?  ニールが?・・・・それは問題だね。うん、そういうことなら、これで十分だよ、ティエリア。フォローは僕がするから、降りられるようにして。」

 ティエリアの話に、アレルヤも頷いた。そういうことなら、早いほうがいい。ここからプラントへ戻るなら、生活していた居住区を片付けておく必要もあるし、小型艇の整備もやらなければならない。

「アレルヤ、慌てなくてもいいよ。小型艇のほうは整備万全だし、居住区のほうは、整備ロボットたちで片付ける。ティエリア、もうひとつの素体は完成したら、連絡してあげるから、そちらは任せて。ヴェーダとのリンクさえしてくれていれば、僕ときみは繋がっている。」

 留守番になるリジェネが、そう告げて、立体映像でアレルヤの前に現れる。リジェネだけでヴェーダを勝手にする心配は一切ない。なんせ、脳量子波で繋がっているので、悪巧みも筒抜けだからだ。それに、今のところ、退屈していないから、そういう遊びをするつもりはないらしい。

「ありがとう、リジェネ。さすがだね。」
「まあね。とりあえず、きみたちのおかんを安心させておいでよ。ククククク・・・・僕も楽しみなんだ。」
「え? 」
「だって、僕らには本来、母親なんてものはないんだもの。その感情を僕もティエリアを通じて感じることができるだろ? 初めてなんだ、おかんっていうものは。」
「リジェネ、ニールは、俺のおかんだっっ。おまえは参戦するな。」
「参戦はしないよ。ただ、その感情を味わってみたいだけ。」
「ティエリア、別にいいじゃない。ニールは、ひとりぐらい増えても嫌がらないよ。」

 もう今更だろうと、アレルヤは苦笑する。いつのまにやら、親猫は四匹の子猫の子育てをさせられているのだ。ついでに、ティエリアから漏れ聞いたところによると、さらに、『吉祥富貴』の年少組まで、その対象になっているというのだから、子供の数が半端でなく増えている。一人ぐらい増えても、ニールは驚くぐらいで受け入れてくれるはずだ。

「そうじゃない。これ以上、俺への愛情が分散されるなんて我慢ならない。ニールは、俺たちマイスター組のおかんであって、『吉祥富貴』のおかんじゃないっっ。取り返してやる。」

 組織が再始動して、降りられなくなったから、『吉祥富貴』に貸してやっただけだ、と、ティエリアは鼻息荒くのたまって、奪回宣言をした。

「わかったよ、奪回でも、なんでもすればいいだろ? とりあえず、さっさと作業を終わらせろや、女王様。」

 ここで、ゴタゴタしているよりも、さっさと降りればいい、と、ハレルヤがせっつくと、ティエリアも作業に戻った。培養カプセルの中の素体へ、自身の記憶とヴェーダへのリンクを開始する。作業に集中すると、ティエリアの立体映像は立ち消えた。ハレルヤのほうは、やれやれと横に居るリジェネのほうへ声をかける。

「おまえも、そのうち降りて来いよ。ティエリアの感情を味わうより、本物に会えばわかるぜ? 」
「そのうちにね。今回は遠慮させてもらうけど、刹那・F・セイエイとは、気長に付き合うつもりなんだ。」

 だから、その保護対象とも対面したいからね、と、リジェネは笑っている。絶対、賭けてもいいけど、おまえも、ニールには甘えたくなるぜ、と、笑う。なんせ、超兵だった自分たちのことも、ちゃんと一人ずつの人間として世話してくれた。そのお陰で、愛情というものを与えられて、それが嬉しいと思う感情を持てたのは、アレルヤとハレルヤにとっても大切なことだったからだ。

・・・・・きっと、驚くよね? ハレルヤ・・・・・・

・・・・・しょうがねぇーだろ? おまえが、ちゃんとフォローしてやれよ? アレルヤ・・・・

 脳内で、ふたりで会話して、二人も、ウキウキとした気分になってくる。ようやく、ゆっくりとニールと会える。心配させなくてもいい状態で会えることが嬉しい。この感情も、ニールが与えてくれた愛情から派生するものだ。


 培養ポッドから出てきたのは、ちっちゃい身体だ。身長が、100センチに満たないので、アレルヤを見上げて口を開いている。

「ありぃるりぁ。じゅんびは、おわたか?」

 そして、身長100センチ未満でも、言うことは、ティエリアだ。しかし、どうも言葉が拙い。顔立ちも、まったく同じだし、紫の髪は、ちゃんと肩口で切りそろえられたかのように、以前と同じ長さだが、大きさは明らかにミニだ。培養ポッドから出てきたから、全裸であるが、羞恥心はないらしい。アレルヤに仁王立ちで命令している。

「おれが着られるものは、にゃいか? 」
「ああ、僕のTシャツでよかったら。ちょっと待っててね。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物5 作家名:篠義