こらぼでほすと 拾得物6
「ニールも喜ぶよ、ティエリア。今、梅雨で、少し弱っているから看病してやってくれ。」
「わかっていりゅ。だから、いしょいだんだ。」
「明日のシャトルまで時間はあるだろうから、お見舞いでも用意するといいよ。このカード、きみたちのものだ。」
ダコスタが、『吉祥富貴』のスタッフが持っているクレジットカードを渡して、ドックからエアカーの通路へ出る。まあ、ふたりの顔が、一番のお見舞いだろうけどね、と、内心で付け足した。
ちょっとお願いがあるんですがー、という、ダコスタからの遠距離連絡に、はあ? と、声を上げたのは八戒だ。
「一応、二、三日分は用意してたんですが、サイズが、あまり合っていなかったんですよ。」
「え? ティエリアくんですよね? 」
ええ、まあ、そうなんですが、データを送りますので、エアポートで捕まえて、衣服の調達をお願いします、と、ぺこぺことダコスタが頭を下げつつ頼んでいるのが、気配で判るので、わかりました、と、返事した。すぐに、送られてきたデータを確認して、八戒も、口をあんぐりあけた。
「え? ええーっと、これが、アレルヤくんだから・・・・・え? 」
三分の一くらいの大きさの子供は、紫の髪で赤い目をしている。髪型もおかっぱだし、顔立ちもティエリアなのだが、決定的に小さいのだ。データを見る限り、着ている服は、かなり大きいらしく、ぶかぶかと、あっちこっちが余っている。
・・・・・なるほど、これじゃあ、サイズが合ってませんね。・・・・・・
子供服ということで、ダコスタは用意したらしいが、それより小さかったのだろう。まあ、こんなに小さいとは、誰も思わない。スケジュールでは、明日の午後には到着するので、シャトルの発着場で捉まえて、とりあえず、衣服を準備してから別荘へのヘリに載せるのが手っ取り早いだろう。
「悟浄、明日、運転手してくれますか? 」
ベッドで、ごろごろと自堕落寝している悟浄の肩あたりをポンポンと叩いて、声をかける。そろそろ起床時間だ。
「運転手? どっかへ遠征ですか? 女王様。」
あふーとアクビをしつつ、己の肩の辺りにある手を捕まえて引っ張る。ドサッと重みがかかるが、これが、また心地よい重みだとしか悟浄は感じない。
「ええ、小さな女王様のお迎えに。」
「え? ああ、ティエリアか。」
「まあ、これを見てくださいよ。小さいんです。」
携帯端末のパネル部分を悟浄に見えるように、八戒が目の前に出すと、「お? ええ? 」 と、自分と似たような反応が返ってくる。
「これ、ティエリアなんだよな? 」
「ええ、そうらしいです。ダコスタからのデータによると、元々使っていた身体を破壊されてしまったので、新たに作り変えたらしいんです。ただ、まあ、ニールのことがあるので完成体までは無理だったと。そういうことらしいですよ。」
完成体は、同時に作成しているので、それが出来上がったら、そちらに移るんでしょう、と、説明して、ほんと、うちの店のスタッフらしい異常さ加減だ、と、八戒も苦笑する。身体の取替えが可能なイノベイドだという事実ぐらいでは、悟浄も八戒も驚かない。普通じゃないのは、当たり前の『吉祥富貴』のスタッフなら、その程度できてもおかしくはないからだ。
「これは、奇跡の生還者様に該当すんのかな? 」
「さあ、どうですかね? 」
結局、悟浄の身体の上に覆いかぶさるようにして、八戒も寝転んでしまった。このまま、うだうだしてしまうと出勤時間に遅刻する。
「ティエリアくんの服が、サイズが合わないらしいので、それを調達してから、別荘に送って欲しいとの依頼なんです。だから、シャトルの発着場から、一端、どこかの百貨店へでも誘導しないと・・・・」
「いや、ちょっと待て。それなら、このデータ送って調達してもらって、合流でいいんじゃないか? アレルヤの身体から推測できるだろ? 」
それに、そんなに数はなくてもいいだろう、と、悟浄は言う。別荘の管理をしているスタッフは、優秀だから、ティエリアが到着したら、すぐに、身体に見合う服は準備してくれるはずだ。
「誰に頼むつもりなんですか? 」
「アイシャさんと、もし、休みならマリューさん。さらに、ただいま、ちょっと時間の余裕があるオーナーだよ。こういうのは女性陣のほうがいいって。八戒。」
だいたい、あの紫猫が大人しく用意した服を着るわけがない。それなら、女性陣の、「あたしたちのセンスを受け付けないわけ? 」オーラで押しきってもらうほうが楽だ。特に、オーナーのオーラなら、ティエリアも黙って着替えるだろう。
「なるほど、確かに、僕らより、女性陣のほうが服飾センスはありますね。じゃあ、悟浄、そのお三人の予定を聞いてお願いしてください。」
「はいよ。」
平日だから、マリューさんは無理だろうなーと思ったが、一応、データは送っておくことにした。可愛い生き物大好きなメンバーなんだから、これは、かなりおいしい生き物だろうからだ。すぐに、三人から返事が来た。明日、シャトル発着場まで、全員やってくるらしい。それぞれ用意してくれたら、それだけで滞在中の服は確保できるだろう。マリューは、いきなり有給休暇攻撃をしたらしい。まあ、いいのだ。ちょっと世界が落ち着いているから、マリューも、そんな真似が可能になるのだ。
「なるほど、やっぱり、女性陣って、着せ替えごっことか好きなんだなあ。・・・・俺としては、八戒を脱がせるごっことかのほうが楽しいんだけど、そういう一方通行ではいかんのかねぇー? 」
「それは、楽しいですか? 悟浄。僕は、大人の遊びのほうがいいですね。」
「今、おっしゃいましたね? はいはい、もちろん、俺は、そっちのほうが得意だから、今夜、是非、遊びましょ、遊びましょう。」
明日、起きられないなんてのはダメです、と、八戒に、つれなく袖にされたものの、実行するつもり100パーセントの悟浄だった。
服が大きすぎて、ズボンが腰から落ちるので、とりあえず、だっこして移動することにした。アレルヤにとっては、別に、どうということでもない。ティエリアのほうは、下僕をこき使うのはいつものことだから、大人しくだっこされている。シャトルが到着して、到着ロビーへと出たら、とんでもなく華やかな面々が出迎えていた。
「いやぁーん、ちっちゃーいっっ。」 と、第一声がマリュー。
「ホシい、ミニを買いたいワ。」 と、アイシャ。
「まあーグッジョブです、アレルヤ。」 と、変装している歌姫様。
三人の魔女いやいやいや、美女たちと、ちょっと疲れた顔の八戒と、左目の辺りに見事な青タンの悟浄が並んでいる。到着ゲートの一角の派手な集団に、ティエリアもアレルヤも、ちょっと固まった。
「とりあえず、押さえてあるラウンジで着替えをしましょうね? ティエリア。」
有無を言わさず、マリューがアレルヤの腕からティエリアをかっ攫い、アイシャと共に、どこかへ向かってしまった。
「えーっと。」
「おかえりなさい、アレルヤくん。少し待っててくださいね。ティエリアくんの着替えが終わったら、別荘へ移動しますから。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物6 作家名:篠義