階段のその先は
ゆっくりと顔を上げていった。
暗くて分かりづらいが、少しのスペースがあり右奥に段差があり屋上への扉があった。
俺はどこかに電気のスイッチは無いかと探す。
そして壁に四角いもの見つけ、そこへ手を伸ばす。
だが、その手はスイッチに届かなかった。
いや、届かせなかった。
何かが、
手が、
横から、
俺の腕を掴んだ。
「―――――っ―!!!??」
叫ぶことも出来なかった。
息が止まった。
恐怖で俺が固まっていると、腕はゆっくりと開放された。
「電気はつけないでくれ。」
「・・・・・・・・・っ・・・。」
「・・・・大丈夫か?」
「・・・・・・・・・・おまっおまっ・・!!!!!!」
「ん?」
「お前っっ!!!!!!驚かすんじゃねぇよっっ!!!」
話しかけられた時も俺の体はハッキリとビクついた。
だが、徐々に落ち着いた。
そして腕が温かかったことを思い出す。
すると不思議とわいてくるのは安心ではなく怒り。
誰だかは分からなかったが、俺は怒鳴りつけた。
そして心臓が元の脈拍を取り戻した頃、
「悪かった。」
「・・・・いや、俺も大声出して悪かった。」
お互い謝った。
そしてなんとなく、屋上への扉の手前の段差に並んで座った。
座ってみると、薄暗いのに心地良い。
「俺はサンジだ。」
「ゾロだ。」
電気をつけることは拒まれたのでつけなかった。
薄暗いままで、顔が見えなかった。
声となんとなくのシルエットしか分からない。
制服を着ているみたいだから、学生だ。何年だ?
髪はだいぶ短そうだから運動部なのだろうか…
だが、そんなことより俺は聞きたいことがあった。
「お前、何でここに居たんだ?」
「・・なんとなく。」
「あっもしかしてあれか?俺と同じか?」
「・・・?」
俺と同じかもしれない。
そう思ったら嬉しかった。
それから俺はここに来た経緯。
そして今までずっと思っていたことを語った。
「なぁお前もそうなんだろ?」
「・・・お前、面白いな。」
「ぁあ?なんでだよ。」
「・・ふふっ・いやなんでもねぇ。」
「で、どうなんだよ。同じか?」
「・・あぁ・・まぁそんなもんかも。」
「本当か!!!??」
「おめぇほどビクついてなかったけどな。」
「・・・・あれはお前にも原因がある。」
それからゾロと決して無理矢理でなく、ごく自然に会話がずっと続いていった。
平凡でたわいない会話を続けていると、いつの間にか雨の音が止んでいた。
「もうこんな時間かよっ!!?・・ゾロは帰んねぇのか?」
「あーもう少しここに居る。」
「・・ふーん、じゃっまたな。」
「あぁ、またな。」
俺は来たときにあれ程時間をかけて上った階段を駆け下りる。
教室に置きっぱなしだったカバンを掴み、学校を後にする。
あの階段の先には確かに予想通りのものがあった。
だが、俺の予想より少し広かった。
俺の予想には無い段差があった。
俺の予想には居ない先客が居た。
思い描いていたその先よりも、ずっと良かった気がする。
俺の記憶では薄暗いあの階段が、離れていくにつれ明るくなる。
もう少しでゾロな顔が見えそうなほど。