階段のその先は
翌日、俺は放課後またあの階段へと上った。
今度は迷うことなく。この下へと続く階段と同じように。
そこにはやっぱり人影がある。
「ゾーーーロ。」
「・・サンジか。」
「お前、毎日居るのか?」
「・・だいたい。」
「好きなんだな。」
「何が?」
「此処が。」
「・・・・・。」
「好きだから毎日居るんだろ?」
「・・・・・。」
「俺も気に入った。」
「そうなのか?」
「あぁ、お前も居るし。」
「・・・何だそれ・・ははっ。」
顔はよく見えない。
それでも、すっごい笑顔だっていうことが分かる。
横から伝わる雰囲気が俺が来たことを歓迎していた。
それから俺達は毎日のようにそこで会うようになった。
何をするでもない。ただ心地良いから話し続ける。
行けない日もあった。でも俺が行くときは必ずゾロはそこに居た。
そんな日々が続いたある日、俺は異変に気付いた。
学校の廊下を歩いていると周りから必要以上の視線を感じる。
俺は友人関係に特に困っているわけではなかったが、最近避けられている気がする。
訳の分からない周りの行動にイラだつ。
そしてその視線は放課後になり、より増していった。
何なんだ…
今日はゾロの所へ行くのはやめようか、
それともこのイラつきを落ち着かせに行くべきか、
ゾロなら何か知っているのか…
俺は階段に行くことにした。
下駄箱がある方向とは逆の階段がある方へ向かう。
すると周りがざわめいた気がした。そのざわめきで足が一瞬止まる。
そしてふと忘れ物をしたことを思い出した。
この状況では戻りにくいが、俺は教室に戻った。
教室の扉に入る直前、声が聞こえてきた。
その声が発している話の中心人物は俺だった。
『やっぱり階段に向かった』
『サンジ君は呪われてる』
『話し声がするの』
『その声は一人なんだぜ』
『誰かが覗いたらしい』
『一人でしゃべってた』
階段・・・・俺が一人で?
話し声が・・・一人しか居ない?
どういうことだ?
暗くて見えないだけじゃないのか?
俺の方がよくしゃべるからじゃないのか?
俺は階段へ走った。
いつも以上に駆け上がる。
そこには変わらず、ゾロが居た。
「よぉ、どうしたんだ?」
「ゾロ・・・・」
「・・サンジ?」
「なぁ、お前・・何年何組だ?」
「・・・・。」
「なぁっ!!!!!」
「サンジ、座って話そうぜ。」
「・・・・・・・・。」
俺はいつものように、ゾロの隣に座る。
だがほんの少しだけ間の距離が空いた。
「何かあったのか?」
「・・・俺が、ここに来ることが噂になってたんだ。
ここで一人で話してるって、俺が呪われてるって・・・」
「・・そうか。」
「ここにちゃんとゾロも居るのに。」
俺はゾロの顔を見る。
薄暗くてあまり見えないのがもどかしく感じた。
「なぁ電気つけちゃ駄目か?」
「駄目だ。」
「・・・・じゃあ触れてもいいか?」
「・・・・。」
俺はゾロの顔へと手を伸ばす。
そこに確かにゾロは居るのに、何かが足りない。
俺はその何かを埋めるためにゾロの顔へと手を伸ばす。
もう少しというところでゾロに腕を捕まれる。
「・・・だめか?」
「・・・・。」
ゾロは俺の手をひっぱって頬に触れさせた。
確かに温かいものがそこにある。
手を通じてその温もりが俺を安心させる。
俺は左手も伸ばして、両手でゾロの顔を包み込んだ。
「ははっお前顔ちっせぇ。」
「うるせ。」
「髪短ぇんだな。」
「まぁな。」
「うわっお前ピアス3つもついてんのかよ。」
「片方だけな。」
「不良。」
「ちげーよ。」
俺はゾロとの間の距離をつめた。
そして両手で包み込んでいた顔を自分の顔に近づける。
そしてコツンと俺のおでことゾロのおでこがぶつかった。
「お前とここに居る時間がすげぇ好き。」
「知ってる。」
「ははっバレバレか。」
「あぁ。」
「お前が居て良かった。」
「俺も、お前が居て良かった。」
「ゾロ・・・・・」
「・・んだよ。」
「照れてんだろ。でこ熱いぜ。」
「・・・っ・・あぁーもう離せっ!!!!」
俺の手から離れていった顔が赤くなっているように見えた。
ゾロが照れているところを初めて見た。
もっと一緒に居たいな・・・と思った。
ゾロとここ以外の場所でも、一緒に居たかった。
「なぁゾロ、一緒に帰ろうぜ?」
普通に誘ったつもりだった。
だけど、ゾロからはそれまでの楽しそうな雰囲気が無くなった。
「ゾロ?」
「悪ぃ。」
「・・そっか、まぁ良いぜ。また今度な。」
「・・・・あぁ。」
「じゃあもう少し居る。」
それからはまたいつものような会話が続いた。