階段のその先は
その次の日も相変わらず周りからの視線は無遠慮に注ぎ込まれる。
だが、昨日までのイラだちがなかった。
ゾロは確かにあそこに居るし、俺は決して一人じゃない。
それをわざわざ遠目からこそこそと話しているような奴等に教える必要は無い。
噂をしていたいならしていればいい。
あの時間さえ邪魔されなければ構わない。
ゾロがあそこに居ることは俺だけが知っていればいい。
「ゾロッ。」
「・・よぅ。」
「どうした?元気ねぇな。」
「いや、大丈夫だ。」
「そうか?ならいいけどよ。」
ゾロとの時間はやはり心地良い。
今日は一緒に帰れるかな・・と思う。
いつか俺の自慢の料理も披露したい。
最近、俺はここ以外でゾロと過ごすことをよく想像していた。
「なぁ、サンジ。」
「ん?なんだ?」
「今日一緒に帰ろうぜ。」
「・・マジで!!!!」
「あぁ。」
「よし、んじゃ何処か寄ってこうぜ。」
ゾロから言ってくるとは思わなかった。
俺はすごく嬉しくてたまらなかった。
帰り道にあるものを思い出して、何処に行くか考える。
真っ直ぐ帰るなんて勿体無い。出来るだけ長くゾロと一緒に居たかった。
「なぁゾロは何処行きた―――
俺がゾロへ振り返るとすぐ間近にゾロの顔があった。
「・・ゾロ・・。」
「・・いいのか?」
「・・・・・はや・・―――
初めてのキスだった。
嬉しいという感情を感じるほど冷静ではなかった。
嫌悪感はまるで無いということは分かった。
俺は・・・・ただただ安心した。
ホッとしたんだ。
何に対してかは分からない。
ただ、安心して、
それから凄く恥ずかしくなって、
そうしてやっと嬉しいと思えた。
「・・・サンジ、お前ともっと一緒に居たい。」
「・・・・俺もだっつの。」
「はは、そうか。」
「・・・なっなぁ、・・・そのぅ・・」
「・・・・・・。」
俺が言いたかったことを分かってくれたのか、
たまたま俺と同じことを考えたのは分からなかった。
ゾロが俺の手を握る手は温かくて優しさかった。
「サンジ、俺はお前が好きだ。」
「・・・・・・っ・・。」
「俺を信じろ。」
「・・・なに・・言ってんだよ。」
俺は恥ずかしくてたまらなかった。
ゾロのその言葉にどんな意味が含まれているとか、そんな深くは考えられなかった。
その手前のゾロからの想いが嬉しくて、それどころじゃなかった。
「俺はもっと居たい。」
「・・俺も、」
「だから、俺を信じろ。」
「・・お前のことは最初から信用してる。」
「大好きだ。」
「・・・・・・・っ・・・ばかやろ。」
「お前は?」
「・・・・・・好きだよ、」
「ははっ知ってる。」
「・・・っ・・・このっ・・馬鹿野郎!!!」
「帰ろうぜ。」
「あぁ、」
ゾロが立ち上がり、繋がっていた手を引いてくれた。
それに従い俺も立ち上がる。
初めてこの階段をゾロと下りていく。
そして半分まで来て曲がろうとする。
サンジ、またな―――
「・・ぇ・・」
曲がった瞬間、ゾロのとびきりの笑顔が見えた気がした。
初めて見るゾロの顔。
それは想像通りの顔だった気がする。
そしてスゥーーーーー・・・・と、俺の手が空を掴んだ。
「ゾロ?」
そこには俺以外誰も居ない。
「おい、ゾロ?」
この手に残るぬくもりは確かなのに―――