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Calling You

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「あんた、・・・・大佐、だよなあ?女好きの」
「・・・何か余計だったが、まあいいとしよう」
 ぽん、と頭に手が置かれ、一瞬眉をしかめた子どもが、その手を払う。
「少尉まで、なにやってんだよ?」
「なにって・・・まあ、なんつーか・・」
「その問は丸々かえそう。鋼の。きみはここで、なにをやっているのかね?」
「――― おれ?・・・えっと・・・。たしか、あんたに、――― そうだ。あんたに北にある集落の、情報収集をたのまれて・・・」
 キイイイーーーーンと空気が突然震えた。

『 だめええーーーーぇ。思い出さなくていいんだよぉ。あんたはここで、ずうっとキズをえぐりかえして、泣いて、後悔してすごせばいいんだよぉ 』

 響き渡ったかん高いしわがれ声に、こどもの顔がこわばった。横からのびた大きな手がその頭をつかむと、自分の懐に押し付ける。
「―― ふざけんじゃねえ。たいしょうはおれたちとここを出るんだ。てめえにこれ以上付き合ってる暇はねえんだよ」

『 出る?ここを?いやいや、それは無理だろねぇ。だって、そのこのキズは、まだまだ擦り切れたり、加工されたりしてないものぉ。そんなのを持ったまま、あんたは出てくって言うのかい?また、自分の奥にその傷を隠したまま、この先もやっていくのかい?そんなのつらいし苦しいよぉ。ここで、さらけだしたその傷を、何度も確認し続けるほうが、よっぽど楽だよお 』

「うだうだうるせえ!―― いいか?こいつはなあ、そのへんの甘っちょろいやつらとは違うんだ。ここに入っちまったのは、いつものトラブルひきおこし体質だから、まあ、しかたねえ。けどな、エドは、現実世界でちゃんと、自分の『傷』と、いつでもむきあい続けてるんだ。隠して逃げたことなんか、一度もねえんだよ。だから、映されたもん見て、取り乱して大声で泣いたりわめいたりしねえんだ。てめえを楽しませるつもりなんざ、これっぽっちもねえし、ここにいる理由がねえ」
「・・・・しょ、しょうい?・・・・」
「ほお。片手に拳銃、片腕に美女、―― とはいかないところが、お前らしいな。まあ、ある意味お似合いだ」
「だ、だれが、だれとお似合いだあっ!!」
「ハボック、その勘違いした赤い顔の子どもを担いで、先に出ていろ」
「いえっさあ」
「わあ!少尉!おろせ!あ、歩けるから!」
「却下。ちょっと今回は、たいしょうに言いたいことあるから、ムリ」
「・・・少尉?・・なんか・・怒ってる、とか?」
 返事の変わりに肩に子どもを担いだままの男は、振り向きざまに向こうの布に発砲し、投影できない状態にまで布を引き落として去ってゆく。
 肩の上で顔をあげた子どもが、ちょっと助けを求めるように視線を送ってきていたが、上司である男はあえて目をそむけ、笑顔で見送る。そのまま手袋をはめた手を組み合わせ、辺りをみまわした。
 
「では、―― どこから燃やそうか?」

『 あんたも、ずいぶんと大きな《キズ》を持ってるねぇ』

「傷?そんなもの、誰にでもあるだろう?」

『 なら、あんたのを、みせてあげようかぁ? 』

 とたんにまた暗闇になった空間の、かろうじて吊り残った布に、見覚えのある景色がゆがんでうつる。
 いつの間にか、さきほど燃え尽きた箱の代わりに新しい箱が置かれ、取っ手が勝手に、くるくると廻っていた。


 倒れる人間。
 オレンジ色の炎と黒い煙。
 にげまどう民間人。


『 ほらほらぁ、ひっどいよねぇ?ああ、あれはあんたのせいなんじゃないのぉ?』

「――― だから、なんだ?」

『 言っておくけどねえ、あたしがみせるこの傷は、あんたたちの中からとりだした、いわゆる《 記憶 》ってやつなんだよぉ?ほかの夢魔がみせる『夢』は、記憶から取り出した断片で都合よくつくる、ツクリモノだけど、あたしは違う。持ってるものをそのままみせてやってるだけさぁ。なのに人は、それを『悪夢』なんて呼ぶんだから、嫌になっちゃうよぉ。ああ、ほら、またあそこで誰かが倒れて死んだ。――― あれも、あんたのせいだろう?あんたが覚えている、あんたの傷だよぉ。ほらよくみてごらん。あの男も女も子どもだって、あんたのせいで、ああなっちゃったんだからさあ!さあさあ、キズをえぐってよく思い出すんだよぉ!! 』

 ひゃしゃしゃしゃしゃしゃ、と降ってくるような笑いの中、垂れ下がった布にうつるものを眼にしたまま、両端をあげた口が、動く。

「―― さっきから、聞いているだろう?だから、どうしたって?これが『記憶』だと?わたしの『傷』だというのか?老若男女問わずに倒れ燃え死んでゆくこの光景を、『えぐって思い出せ』だと?」
 はっ、と馬鹿にした息をもらす男が、手を、高々とあげた。
 
           「 冗談もほどほどにしろ 」

 ぼっっ、と布が一気に燃え落ちた。

『 ああっ、あんた、じぶんの傷を否定するのかい?ひゃしゃしゃしゃしゃ!馬鹿だねぇ。そうやって傷から逃れようとするやつほど、深く傷にはまるのさあ!あんたはもう、ここから出られないよお!! 』

 ぼんっ、と箱が爆発するように燃え上がる。
 
『 やめておきなよお!そんなことしても無駄さあ! 』
 
 ぼっぼっ、と続けて椅子が燃え出した。
 
『 ・・・や、やめてよぉ!無駄だって言ってるだろお? 』

 ぼふぅっ、とひどい勢いで、床が火をあげた。
 
『 やめろおお!あんただって、ここで燃えるんだよ!?わかってんのかい? 』

 腕をあげたままの男が、わらう。

「―― なぜ、わたしがここで燃える必要がある?ここから出られないのは、ここにとらわれた者だけだ。―― 貴様のようにな」

『 あ、あんただって、キズにとらわれてるはずだあっ! 』

 大きく振られた腕に合わせるように、炎がはしる。
 オレンジのそれが、床と壁をなめつくしていった。
 
  ぎゃあああああああああ!!やめ!やめ、やめろおおおお!!
 
「――― 傷というのは、痛みをともなわなければ、傷として残らない。感覚もないものを負わされて、それを『傷』といわれても、だからどうした、と言うまでだ。あの景色がわたしのせい?ああ、そうだろう。じかに手をくだしたこともある。思い出せ?何を言っている?思い出すもなにも、――― わたしはまだ、あの景色の中にいるのだよ」


                      男の顔の前で指が弾かれた。








     ※※※※※





「ほら、にいさん、きれいだねえ」
「・・うん・・」
「食べ物のほうが、良かったかしら?」
「あ、ううん、ありがと、中尉。その、なんか・・・」
 白い病室に、その花束は明るい色をそえ、まるでこれを持ってきた女をあらわすようだと感じたのを、ベッドの子どもは赤い顔で隠そうとする。
「ぼく、さっそく花瓶にいれてくるね。ほら、中尉がきれいな花瓶も持ってきてくれたから」
「あ、うん。・・・」
 空気をよむのが得意な弟は、上機嫌に鼻歌をうたい、大きな身体をゆすりながら部屋を出ていった。
 起き上がった子どもの肩にブランケットをかけた女は、ベッド横の椅子にこしかける。
作品名:Calling You 作家名:シチ