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月のひかり、星のかげ

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一人は、今、頭上に広がる星空の何処かに位置する惑星からやって来たという、不可思議な宇宙人のパル。そしてもう一人は、整った造作の顔に温度の感じられない無表情を乗せた、女子高生のショウコだ。この二人に、先に来ていた更紗とソラを加えればいつもの天体観測チームの集結である。

「何か、そんなにくたびれるようなことでもあったの?」
「んー……まあ。ちょっと、ね」

適当にはぐらかせば、ショウコはそれ以上詮索してくることはなかった。彼女の性格や関係の浅さからすれば、当然の反応だろう。そしてそれは、ソラにとってとても都合の良い反応でもあった。
「そう」と抑揚のない声で話を切り上げて、ショウコは更紗に挨拶をしに行く。パルは側に立てていた望遠鏡を覗き込んで、「キョウはナニがミえるウパ?」と興味津々だ。そうして始まる、四人の日課。
とあるパーティーに参加した、ということ以外、何の接点も共通点もないこの四人が、集って星を見るのにはそれぞれ理由がある。

「コンヤはよくハレているウパ。ウチュウセンからミたのとおなじクライ、ホシがいっぱいミえそうウパね」
「うん、空気が澄んでる。パルの惑星(ほし)も見えると良いね」

地球に不時着した宇宙人は、故郷を恋しがって夜空を眺める。

「フォーマルハウトが物凄く大きく見えるね。とっても綺麗」
「そうだね。南魚座自体もはっきり見えるよ」

宇宙に光る星の精霊は、地上に住む人間に星の美しさを説いている。

「南魚座って、魚座には東西南北があるのかしら?」
「いや、魚座と南魚座だけだよ。ただ、魚座を構成する二つの魚をそれぞれ『北の魚』『西の魚』と呼ぶから、実際には東の魚が欠けているっていうことになるのかな?」

それでは、この女子高生はどういった理由で星を見ているのだろう。

またしても「そう」と愛想のない声を返されて、ソラは首を傾げた。星に興味があるのかないのかさえも、良く分からないショウコ。
そんなショウコとソラの付き合いは今から数ヶ月前、ポップンパーティーという音楽の祭典に、互いに呼ばれたことに端を発する。
ソラは、どうして自分がかの有名なポップンパーティーに参加を許されたのか、未だに良く分からなかった。主催である『神様』MZDにお礼がてら訊ねてみても、『そういう運命だったのさ』とはぐらかされてしまった。――兎に角、ソラは今年で十四回目になるポップンパーティーに呼ばれ、その席でショウコと出会った。同期として簡単な挨拶を交わし、そして互いのイメージ・ソングを段上で披露した。……それだけの関係だった。あまりの関係の希薄さに、どんな第一印象を抱いたのかも覚えていない。行きずりの少女。

『あれ? もしかして、この前パーティーで会った……』
『あ……っ』

その少女と再会したのは、それこそ運命の悪戯だったかも知れない。

一ヶ月程前のことだ。いつものように天体観測に赴いたソラは、道中でバッタリ彼女に出くわしたのだった。顔は覚えていたが、名前は中々出てこなかったソラに対し、ショウコは澄んだ声で名を呼んだ。『ソラ君、だったわね』。その響きが、妙に物悲しく聞こえたのが気になって、共に天体観測をしないかと誘った。それが、切っ掛け。
後から聞いたところによると、その時、ひどく落ち込んでいたという彼女にとって、ソラの誘いは良い気晴らしになったらしく、ショウコはこの河原に度々顔を出すようになった。ただ、だからと言ってショウコはその落ち込んだ理由を語ることはなかったし、ソラもショウコのプライベートに首を突っ込むことはなかった。

「折角だから、魚座も見てみる? 今の時間だと地平線のすぐ近くにあるだろうから、少し探し辛いだろうけれど」
……そう。今も、疑問には思えど口には出さずにいるように。

ソラの問い掛けにパルは「ミてミタイウパ!」と大きく頷き、更紗は先の『発作』を見た為か少し屈託の残る微笑で「うん」と小さく賛同し、ショウコはクールに「どちらでも」と言い放つ。反対意見がないのを見て、ソラは天を仰いだ白い筒へと手を伸ばした。
「それにしても……良く、本や星座早見表を使わずに星の場所が分かるわね」
「まあね。慣れだよ、慣れ。五年、六年も同じ空を見続けていれば、自然と覚えてしまうものだよ」
正直、この位の距離感が丁度良いのではないかとソラは思う。お互いがどんな人間であるかを知らずにいても、会話は出来るのだし。
星が綺麗だという所感を共有することは出来るのだし、時にはそのことや他のことで拙い笑顔を交し合ったりすることだって、出来る。
「随分と年季の入った趣味ね……」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
感心半分、呆れ半分といった感の漂うぼやきにソラが堂々と応えると、それまで絶対零度の無表情を貫いていたショウコが、不意に頬を緩めた。……それは、恐らく苦笑いだったのだろうけれども。柔らかく目を細めたショウコに釣られ、思わずソラも相好を崩す。

澄み渡った夜空の下、流れる穏やかな空気を胸に深く吸い込んで、ソラは満天の星々を眺めた。そう、自分と彼らは言うなれば、すぐ近くに在りながら、その実遠く離れている星達のような関係なのだろう。……それで良い。それが良い。下手に近付き過ぎれば、それだけ傷付ける機会(おそれ)も増えてしまうのだから。
関わりが深ければ深い程、ふとしたことで取り返しの付かない傷を与えてしまう――…蘇る記憶に心の奥がずきん、と痛んだ。

『何も言うな、ソラ。……悪いのは、ヘマをした俺なんだから』

誰よりも、近しい存在であった人間に負わせた大きな傷は、

『どうして……こんなことになったのかしら、ね……』

今も、消えずに残っている。その事実を思い出す時は決まって喉の奥が疼くのを感じた。
堰を取り付けたかのように吸気を阻み始めた喉に手を当てて、ソラは俯く。落ち着け、と何度となく繰り返して深呼吸をする。……彼との思い出を夢に見たとはいえ、今日はやけに感傷的だなと自嘲した。
二度目の発作は起こす寸前で持ち堪えて、顔を上げればそこには、ショウコの姿。「……どうかしたの? ソラ君」と問われても、本当のことなど言えるわけがない。言う、つもりもない。自分自身、良く分からないことも、ある。

「いや……何も」

もしも、今。自分が理解出来ている限りの全てを話したならば、ショウコはどんな反応をくれるのだろうか。更紗のように、過剰なまでの同情をくれるのか。それとも、バイト先の先輩のように、過保護なまでの擁護をされるのか。もしくは、拒絶するのだろうか。

「ちょっと、喉の調子が悪くてね。風邪じゃないと良いんだけど」

嫌われて、離れていかれるのなら。それはそれで引き止める余地はないし、繋ぎ止めておきたいと願う程、彼女は近しい人間ではない。
それでも、この四人で行う『日課』は楽しく、居心地の良いものであるし、自ら進んで遠ざけようと思う程に遠い関係でもない。故に、適当な文句で誤魔化すとショウコは厳しい表情を見せた。
それはソラの言い訳に気付いたという顔ではなくて、ソラの体調を気遣い、心配してのものであったということをソラが悟ったのは、彼女が鞄から取り出した何かを受け取ってからのことだった。