こらぼでほすと 拾得物7
で、大人組に座らされているティエリアとアレルヤとライルは、その騒ぎを眺めているだけだ。さすがに、こんな騒ぎは経験していないから、黙って見ているぐらいが関の山である。
「ティエリア、おなか空かない? ちょっと食べる? 」
「たびる。」
あちらは勝手にやっていただこう、と、アレルヤは勝手に料理を取り分けて、ティエリアに食べさせる。ぱかんと口を開けているティエリアは、まるで雛のようだ。かわいーいーとスメラギは、それを見て、また騒いでいる。
こうなると、ライルは暇だ。俺がいなくてもいいんじゃね? と、思いつき、席を立つと刹那の席へ背後から近寄った。
「なんだ? 」
「俺、サボるぞ? 別荘って、どうやったら帰れるんだ? 」
「本宅のヘリポートから移動できるはずだ。・・・・ちょっと待て。」
ぼそぼそと話していた刹那は、おもむろに立ちあがった。お? と、ディアッカが、声を出したら、年少組の視線が、そちらに向いた。
「フェルト、ライルとHしたいんだが席を外してもいいか? 」
「うん、いいよ。」
ぶほっっと、大人組で酒に咽たのが数名いたが、年少組は、ひゅーと囃し立てるほうが多かった。イザークとアスランは、おいおいと、こめかみに手をやった、常識派だ。
「明日は付き合う。ライル、行くぞ。」
すたすたと、そのまんま店の外へ出て行った刹那に、キラは、「すっごい台詞。」 と、笑っているが、大人組では、かなり衝撃だったのか、しばらく沈黙した。
本宅へ戻る前に、ハイネに連絡をしたら、とてもではないが、この雨で夜間飛行は勘弁してくれ、と、返事された。
「戻っても、ママニャンは、すでに寝てるしな。話したいことがあるんなら、明日にしろ。」
ヘリの運転手に、そう言われてもしまうと刹那も大人しく従うしかない。確かに、雨は小振りになってるが風は、かなり激しいから、軽量のヘリコプターだと煽られて失速する。
「戻れない。」
「・・・そうか・・・・兄さんは? 」
「もう、寝ているそうだ。・・・・・・心配しなくも、いつものことだから問題ない。おそらく、ドクターも別荘で待機してくれているはずだ。」
刹那やティエリアにしてみれば、この時期は、いつもこんなだ。雨が降る前に、必ずぐったりして倦怠感満載でベッドにダウンする。そうなると、雨が止む頃まで、そのまんまなので、刹那もティエリアも看病に勤しむことになる。自分たちがいなければ、看護師なり、そういう資格を持っているハイネや八戒あたりが世話してくれることになっている。
「五年前から、ずっと、こんな調子だから気にするな。・・・・・どうする? 」
この事態を始めて知ったライルは、気にしている様子なので、刹那は連れて帰ろうと思ったのだが、「ヘリは無理」 と、言われてしまっては、戻れない。ライルにも、ハイネの声は漏れ聞こえていたから、うん、と、頷く。どこと言われても、ライルにも考えはない。誰もいないなら、少し話したい、と、ライルは思っただけだ。
「・・・・・あの人さ、なんにも言わないだろ? 余計なことは、いろいろ言うけどさ。肝心なことをな、なんにも言わないんだよ。」
一月も側にいるが、畏まった話は、まったくしない。ライルが何事か言いたいと思っていると、するりとかわされてしまう。動けない今なら、と、思ったのだ、と、刹那に言う。
「ニールが言いたくないのなら聞かなければいい。」
「そうだけど・・・・お礼ぐらい言いたいんだよ、俺だってな。」
組織で、マイスターとして活動して、わかったことがある。マイスター組リーダーでありながら、一人で、私怨に走った兄の行動が、どういうものかは理解できたのだ。よくよく考えたら、両親が遺してくれたものがあったとはいえ、兄が自分の学費やら生活費を大学卒業まで送ってくれたのは、愛情があったからだ。それに、私怨に走ったのも、両親や妹や自分を愛していてくれたからのことだと今は思う。世界を変革して、戦争を無くす理念に賛同して、マイスターになったのだ。それなのに、その理念より敵討ちを優先したのは、家族が大切だったからに違いない。自分たちを不幸にした、あの戦争の権化みたいな男がいなくなれば、と、兄は考えたはずだ。
学生の頃は、親の遺してくれたものだとばかり思っていた。それに、所在不明で金だけ送りつけてくる兄を、もう縁は切ったつもりなんだろう、と、思っていた。なんせ、自分は兄と比べられるのがイヤで寄宿制の学校を選んだのだ。そんな弟に愛情なんてないだろうと思っていた。
「俺はさ。家族なんて、どうでもいいんだと思ってた。・・・・でも、そうじゃないんだよな。あんたたちの世話をしている兄さんを見てて、そう思った。」
『吉祥富貴』の年少組のことも、兄は同じように世話を焼いている。それを見ていると、この人は、本当に優しいんだ、と、判る。その兄が、相討ちになっても、と、戦ったのは、そういうことだ。戦って、最後に残った自分が、こんなことに巻き込まれないように、と、願ったのだ。同い年で、同じ遺伝子で、同じ卵子から分れたはずなのに、兄と自分では、こんなにも違う。この差は、たぶん、兄が、自分なんかより過酷な人生を経験したからなのだろう。
「・・・・・ニールは、寂しがり屋だ。俺たちが純粋培養のテロリストばかりで、世俗に疎かったから、いろいろと考えてくれていた。それで、おまえに逢えないことを紛らわしていたんだろうと思う。」
刹那たちが、家庭というものを知らないと判って、ニールは、少しでも、それを味合わせようと努力してくれた。組織内で、そんなものは必要でない、と、ティエリアに切り捨てられても止めなかった。そのお陰で、自分たちは、それなりの絆を築けたのだと思うし、そういう感情があれば強くなれることも理解した。
戦うだけの機械ではないんだから、と、ニールは最初の頃に、よく言っていたのは、そういうことだ。
「俺には、あの人みたいなことはできないけどさ。でも、『ありがとう』ぐらいは言いたいんだよ。改まって言うことじゃなくても、俺は、そうしたい。」
「明日、別荘へ戻ったら、そう言えばいい。・・・・・どうする? 」
店の前に立ちすくんでいても仕方がない。店へ戻るのか、それとも、マンションへでも帰るか、刹那は、そう問う。
「・・・・明日ね、まあ、いいんだけどさ。」
「ニールはわかっている。おまえが言いたいことも考えていることも、わかってはいるはずだ。ただ、聞きたくないんだろう。恥ずかしいんじゃないか? 」
「恥ずかしいねぇ。あんた、そういうこと言ったことはあるのか? 」
「ない。だが、通じている。」
無口な刹那には、そんなことを言うほどの語彙はない。だが、何かしら通じているものはあって、互いに顔を見合わせて微笑むぐらいで済んでいる。刹那の答えに、ふーん、と、ライルは納得したのかしてないのか、わからない声を上げた。
「慌てる必要はないだろう。ニールは、ここに居るんだ。」
「・・・うん、そうだよな。・・・・・メシでも食いに行こうか? それから、マンションというコースで、どう? 」
「嘘が真実になったな。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物7 作家名:篠義