こらぼでほすと 拾得物7
「あはははは・・・・・そうだな。」
とりあえず、タクシーを呼び止めるか、と、しとしとと降る雨の中に、ふたりして歩き出す。そして、刹那は足を止めた。
「おまえたちは両極端だ。たぶん、ふたりで居たら、俺の場所はなかったはずだ。・・・・ニールに嫉妬する必要はない。」
「え? 」
「与えられたいおまえと、与えたいニール。俺は、たまたま、その真ん中に居座った。たまに、ニールから直接、与えられればいいし、おまえも、ニールに甘えればいい。・・・・明日、ニールを貸してやる。ティエリアにも、そう言っておくから、甘えてやれ。」
刹那が、ディランディーさんちの双子を間違えないのは、まったく違うからだ。たまたま、刹那は、ニールに与えられる位置にいた。本来、それは、ライルが享受すべきものだったのだと、今はわかる。だから、そうすればいい。それで、どちらも満足するはずだ。長い時間離れていて、それが、すぐにできないから、どちらも相手に思っていることができるのだ。
「・・・うん・・・・なんで、あんたは、そう無駄に男前なんだろうな? ほんと、俺としては、ダーリンが、男前で嬉しいけどさ。」
「事実だろ? マンションへ帰るのか? 何もないぞ? 」
「ちょっとデートでもしようぜ? 初めてだし? 」
「そう言えば、おまえと、外出はしていないな。行きたいところへ連れていけ。今夜は付きあってやる。」
「了解。」
どっかのホテルのバーへでも? と、ライルはタクシーを止めて、行き先を告げている。メシ食うんじゃなかったのか? と、刹那は思ったが、ライルが、ニパニパと頬を緩めているので、従うことにした。こういうことは、よくわからないから、ライルに任しておこうと思ったからだ。
翌日、携帯端末の呼び出しに叩き起こされたのは、ライルだ。刹那は、シャワーでも浴びているのか、携帯端末を放置している。うーうーと唸りつつ、ボイスオンリーで開いたら、アレルヤの声だ。
「刹那? 今どこにいるの? 」
明らかに怒っている声だ。まあ、そりゃそうだろう。あのまま行方不明状態で、マンションにも戻らずに、ホテルで目を覚ましたわけだから。
「アレルヤ? いま、何時? 」
ぐたぐだと目を擦りつつライルが起き上がる。
「もう十時半だよ? まだ寝てたの? ライル。」
「二度寝してただけだ。」
というか、昨夜、最寄の大きなホテルのラウンジで、のんびりと酒を飲んで、そのまま、そのホテルに泊まった。ヨッパライ同士は、ご機嫌で、そのまんま眠ったが、まあ、朝から酔いが醒めて、いろいろとやったわけだ。
「これから別荘に行くんだけど、合流できそう? 」
「え? うーん、一時間くらいはかかりそうな気が・・・・・」
余韻覚めやらぬライルは、まだシャワーも浴びていないわけで、準備しなければならない。
そこへ刹那が腰にバスタオルを巻いて戻ってきた。ライルの手の携帯を取り上げる。
「今日は別行動にしてくれ、アレルヤ。それから、そこにティエリアはいるか? 」
別に、歌姫の行動に従う必要はない。フェルトとスメラギの案内なんてことだと、刹那は、はっきり言って役に立たないので、別行動でも問題はない。
「にゃんだ? しぇちゅにゃ。」
アレルヤは、すぐにティエリアに代わってくれた。今夜、別荘にライルをやるから、おまえは、こっちに滞在しろ、と、言いおいて携帯を切る。ライルだけやるから、刹那は寺へ泊まるつもりだ。 たまには、兄弟で話せばいい。
で、これぐらいで大人しく引き下がるティエリアではないので、すぐに携帯端末は着信する。
「ちゃんとしぇちゅめいしろ、しぇちゅにゃ。」
「ライルが、ニールと話したいことがあるそうだ。俺たちがいないほうが話し易いだろう。」
「にゃるほろ、らいるも、にーるにあまえたいということだにゃ? 」
「概ね、そういうことだ。」
「りょーかいにゃ。おまえは、てりゃか? 」
「そのつもりだ。」
歌姫の本宅より、悟空の寺のほうが、刹那には気楽だから、そちらのほうが泊まりやすい。それに、ランニングするにも、都合がいい。
「おりぃたちは、ほんたくににゃるだろう。しゅめらぎは、そのままいどうにゃ。」
「ああ、わかった。」
フェルトは、一ヶ月は滞在するだろうから、ずっと付き添っていることもないし、スメラギとは、組織で顔を合わせる。一々、挨拶することもないだろうと、刹那は思っている。
携帯端末を置くと、ベッドに座っているライルの横に座りこむ。予定はなくなったから、夜まで暇だ。
「着替えに、マンションに戻るか? 」
「そうだな。」
スーツのまんまでは動きにくい。ライルも、そうらしく、チュッと刹那の唇にキスすると、シャワールームへと歩き出した。
はいはい、了解、と、携帯端末のメールを確認して、ハイネも動き出す。ヘリで迎えに来い、という歌姫からの連絡だ。お見舞いと称して、フェルトとスメラギを、こちらに寄越すらしい。
一応、声だけはかけておこうと、医療ルームへ顔を出す。昨晩、寝る前にニールは、ハイネに頼み事をした。まさか、そんなことはないだろう、と、高を括っていたら、きっちり、ニールの言うように刹那から連絡が入ったのには驚いた。
実際、台風ほどの威力でなければ、夜間でもヘリで往復なんて、ハイネにはお茶の子さいさいだ。
「戻って来られても、俺は寝てるからさ。それに、ライルに顔を心配そうに覗かれるのは勘弁だ。」
だから、戻るな、と、言ってくれ、と、ニールは頼んだのだ。さすが、おかんというか、なんというか、黒猫の行動をばっちり把握している、と、ハイネは感心した。
朝から治療されているニールは、のんびりとテレビを眺めていた。食事があまり摂れないから、栄養剤を点滴されている。雨は、まだ勢い良く降っているが、顔色は少しマシになっている。
「おはよう、マイハニー。」
「おう、おはよう。」
「せつニャンが、昨日、連絡してきたから断ったぞ? 」
「ありがと、ハイネ。」
「それから、今からオーナーが、フェルトちゃんとスメラギさんを連れて見舞いに来るそうだ。これは、拒否れないからな。」
オーナー命令は、さすがに、断れない。それは、ニールにも判っているから苦笑して頷いている。どうせ、フェルトが駄々をこねたんだろう、と、言う。
「しかし、なんで、そこまで正確に把握するかね? おまえさんは。」
「わかるだろ? それくらい。・・・・まあ、今夜辺り、ヤバそうなんだけどな。」
「え? 」
「ライルが、なんか言いたそうにしてんだよ。・・・・あんまり聞きたくないんだが、もう無理だろうな。」
なんだかんだ言っても、刹那はライルの言うことは聞いてくれる様子だ。言いたいことがあるとライルが言えば、どうにでもして、別荘へ戻ってくるに違いない。
「拒否ってやろうか? 」
「・・・・・・いや、うん・・・・・聞くのが、俺の役目だろうからさ。」
「もうちょっと具合のいい時にしてもらえよ? 」
「そうしてもらえると有難いな。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物7 作家名:篠義