こらぼでほすと 拾得物7
「クルマ返すよ。俺、あんまり降りて来れないし、元々は兄さんのだからさ。メンテナンスはしてあるから問題ないと思う。」
送りつけたクルマが健在なのは、ライルが『吉祥富貴』のミッションに来た時に判明している。あれは、あの後、再び、アイルランドへ送り返してある。
「いや、いらなかったら売ればいいさ。俺、こっちでは運転してないんだ。」
最初は貸与されたクルマに乗っていたが、具合が悪くなってから、ずっと乗らなかったので、今では運転していない。右目のこともあるし、体調のこともあって、誰かがアッシーをしてくれているのだと説明した。
「・・そっそれからさ・・・・学費とか生活費・・・・返したいんだ。あんまり貯めてないけど・・・・少しずつ。」
「あ、いや、それはもういいよ。こっちで金使うこともないし・・・・十年も前のことだ。忘れてくれ。」
頼むから、忘れてくれよ、と、ニールは苦笑する。ライルだけは、普通に生きていて欲しい、と、思って送り続けたものだ。ある意味、ニールのエゴだと思っている。
「俺さ、愛されてないと思ってたんだ。」
「はあ? 」
「だって、金だけ送ってきて会ってもくれなかっただろ?・・・・・なんか家族が亡くなった時もさ、唐突過ぎて、何がなんだかだったしさ。結局、俺は、そのまま寄宿舎に戻って、元の生活してたけど、あんたは大変だったんだろうなって、今更ながらに思うよ。・・・・・マイスターになって、あんたがやらかしたことを聞いて、ようやく解った気がした。あんたが、どれだけ俺や家族のことを愛してたかってことがさ。その時になってわかったんだ。・・・・・・ありがとう、兄さん。俺、あんたのこと、大好きだから。嫌いじゃなかったんだ。あんたと比べられるのがイヤだっただけだ。」
大切だと思っていたから、家族を亡くす原因になったものを憎んだ。その憎しみが強すぎて暴走したのだと、ライルは理解した。仕送りだって、そうだ。何不自由なく暮らせるように、と、ライルのことを気にしていたからのことだ。それすら考えなくて、兄が死んだと言われて気付いたなんて遅すぎた。だが、兄は生きている。だから、それを伝えたいと思っていたのだ。
「・・・・・いや、そう改まって言われると恥ずかしいんだけど?・・・そんなに大したことじゃないんだ。俺は、やっぱり神経が細いからさ、そういうふうに誰かを憎まないと生きていけなかっただけなんだよ、ライル。それで、こうなったわけだからな。・・・・おまえが、そうならなくてよかった。」
「・・・違う・・・・刹那がいて導いてくれたからだ。あんたが育てた刹那に助けられたってことだよな?」
絶対に、あんたの弟は守りきる、と、刹那は出発の前に約束していった。いろいろとあったらしいが、刹那は、きっちりと約束を守ってライルを、ここに辿り着かせてくれた。それについては、刹那に感謝している。
「別に育てたわけじゃないよ。・・・・これから、刹那のことは助けてやってくれ。イノベーターってのに、なっちまったんなら、また、いろいろと大変だろうと思うからさ。」
誤魔化すように話を変えたら、ライルに睨まれた。さすがに、刹那たちのように簡単には騙されてくれない。
「なんでも勝手にしてくれて・・・・俺の意見なんて聞かないつもりか? 」
「そうじゃない。もう、いいだろ?」
「よくない。・・・・俺、あんたからすれば頼りないんだろうけどさ。これからは、ちゃんと話してよ? あんたは、ひとりでやってきたんだろうけどさ。今は、俺も刹那もいるんだよ。ティエリアやアレルヤたちだって居るんだ。あんたにとったら、あいつらと俺、家族だろ? 」
「うん、そうする。」
「うわぁー嘘くさい即答。」
「どうしろってんだよ? 」
「どうもしなくていいさ。でも、寂しいとか思ってる時は連絡してくれ。愚痴でも文句でも、なんでもいいからさ。・・・・・無力だとか、そういうの思わないでよ、兄さん。」
「・・・おま、なんで、それ・・・・」
ライルには、もちろん、他のマイスター組にも口に出して言ったことはない。リタイヤすることになって、できることを、と考えていた。それでも地上で見守っているだけというのは正直、辛かった。降りてくる刹那たちの相手をしている時も、組織のことは聞かなかったから、どうなっているのかもわからなくて精神的には、かなり堪えていた。ただ、そういうものは見せたくなかったから、いつも通りの態度で居たのだ。
「刹那がさ。・・・・俺は何があっても死なせられなかったって言ったんだ。あんたから、家族全部を奪うわけにはいかなかったから、って。ずっと与えてくれてたあんたに返すことができるのは、こういうものだって言ってたよ。・・・・・これから、あんたは自分が与えてたものを返してもらえばいいんだ。無力なんかじゃないんだ。あんたが生きてることで、あいつらにとってのお守りみたいなものなんだよ。わかってる? 兄さん。」
俺も、そうだからね、と、ライルは真剣に睨む。だから、今度は、あんたに仕送りするんだよ、俺から、と、伝えた。
「俺が仕送りする金は、テロリストとして稼いだ金だ。誰かを殺して稼ぐものだ。わかるよな? 」
過去、ニールが、そうして稼いでいたものと同じものをライルが仕送りするという。そう言われると断れない。
「わかるけど、おまえ・・・・・俺は生活に困ってるわけでもないのにさ。」
「困ってなくても貰え。それから、俺の口座に最後に振り込んだヤツは返金する。」
「いや、それもいいからさ。」
「よくないだろっっ。あんたさ。俺への仕送りしてた時、ちっとも自分のために使ってないんだろ? これから、ちょっとは贅沢してくれ。・・・・あんた、忘れてるみたいだけど、俺は、あんたと同い年で、双子なんだ。」
普通なら、どちらも同じように生活しているはずなのに、片方に仕送りしていただけでも、おかしいのだ、と、ライルは詰め寄った。確かに、そうだが、それが支えでもあったのだと、ニールも言い返す。ライルが居るから、ライルのために、と、思っていた部分があったから、それができたのだ。
「わかってるよ。でも、仕送りはしなくていい。・・・・あれは自己満足みたいなものだったから・・・」
「だからあー俺のも自己満足なのっっ。どうせ、あんたはさ。それで、刹那の服買ったりするんだよ。・・・・・自分のものも買えよ。」
「・・・・・そういうことなら、仕送りしないで、おまえが刹那の服を買えばいいんだろ?」
「そうじゃねぇーよっっ。・・・・・兄さん、俺は今まで、あんたがしてくれたことを、ようやく理解したんだ。だから、こういう形で返したいんだ。これは決定だからな。それから、俺も、今から、あんたに存分に甘えるので覚悟しておけ。」
「はい? 」
「だいたい、赤の他人の刹那ばっか甘やかして、俺は十年分くらい損をしてる。だから、その分は取り戻す。」
「意味がわからないぞ? ライル。甘えたいなら刹那に甘えろよ。一応、ダーリンなんだろ? 」
「そっちはそっち。こっちはこっち。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物7 作家名:篠義