こらぼでほすと 拾得物7
今日は、ここで寝る、と、ライルは、ふんぞり返っているわけで、ニールは、おいおいと額に手をやる。やっぱり兄弟だな、と、内心で苦笑する。大切なことは言ったが、最後は誤魔化したからだ。過去のことを問いたいという部分は、誤魔化してくれた。ある程度、予想していたのだろう。同じ方法で仕送りするというのだから、そういうことだ。
「やりたきゃやれよ。・・・・・・・俺は、おまえがいてくれてよかったと思ってるよ、ライル。」
「ふふーん、そうだろ? 俺も兄さんがいてくれてよかったと思ってる。愛してるよーん、ニール。」
双子だけど、どっか違うんだよな? と、感じつつ、ニールも笑っていると、むちゅーとキスされて、さすがに殴った。
二日ほどして歌姫が仕事で外出することになり、ようやくフェルトを開放した。その頃には、ニールも医療ルームから部屋に戻っていたが、まだ、ちょっとグダグダしている。
というのも、ライルが、ずーっとへばりついて昼寝の邪魔をしていたからだ。気付いた刹那が、途中で止めさせたが回復が遅れている。それだけが原因ではないが、それを理由にした。そうしないと、ニールが不調に気付くからだ。年々回復が遅れているのは、ティエリアと刹那は、ドクターから説明されている。厳しい管理体制を敷いていても、やはり、負のGN粒子による影響は現れている。漢方薬治療で、極端に体調が崩れることは減ったが、それでも以前のような状態には戻らない。ドクターからの指示に、真剣に全員が頷く。
「ダブルオーをロールアウトできるまでは、このままだ。なるべく、無理させないようにして欲しい。」
マイスター組が、ドクターからの説明を受けている間、付き添いはフェルトがしていた。当人にも、このことは話していないし、フェルトにも言わない方向だ。
「・・・・・りゃっせぇも、しょうだったにゃ? しぇちゅにゃ・・・・・」
「そうらしい。悟空が、かなり気をつけてくれていたらしい。それで、どうにかなっていたんだろう。」
『吉祥富貴』のスタッフは、このことを知っていたので、無理させないようにしてくれていた。だから、アッシーがいたりするのだ。
「おりぃが、また、かんりしゅる。みんにゃ、ふぉろーしてくりぇ。」
以前もティエリアが、管理していたから、そういう方向で動くことにする。以前より厳しくしなくてはならないが、ティエリアが小さいので動けない分のフォローは、全員ですることになった。
微熱だけだから、と、ニールは言うのだが、フェルトも頑固である。ベッドから出ることはできないように、しっかりと睨んでいる。今日は、可愛い夏らしい服で、どうやら歌姫が用意してくれたらしい。
「そういえばね、ニール。私、ニールが恋人だと思われてたんだよ? 」
「はあ? 」
なんとはなしに話していた話の流れで、フェルトが、そう言って笑う。十個も下のフェルトと俺? と、ニールには驚く話だ。
「あんまり似てるから、じーっと眺めてたらね。いきなり、キスされて、『兄さんの代わりをしてやろうか? 』って・・・・びっくりして平手で叩いた。」
「え? フェ、フェルト? もしかして・・・・ライルか? 」
「うん。」
たはぁーとニールは息を吐く。最初の頃は、比べられて随分と辛かった、と、ライルは、昨日、愚痴っていたが、そういう八つ当たりをしたらしい。
「ごっごめんっっ、フェルト。あいつ、謝ったか? 」
ジタバタと起き上がって、フェルトに頭を下げる。八つ当たりで、どう考えてもファーストキスだろうものを奪われたのだとしたら、平手打ちでは優しすぎる。ちゃんと謝罪したのか、気になった。
「ううん、私も叩いたし、しばらく、口もきかなかったから。・・・・もう、いいよ。気にしてないから。でもね、すっごくおかしかったの。ニールが恋人って・・・・・どっちかというと、お母さんなのにね。」
その言葉も、どうだろう? と、思いつつ、フェルトが、それほど気にしていない様子なので、ちょっとほっとした。したものの、やっぱり謝らせたほうがいいだろうとは思ったのも事実だ。
「ごめんな、フェルト。」
「ニールが謝ることはないよ? それより、起きたんなら、飲み物ぐらいはダメ? 」
「うん、なんか貰おうかな。おまえさんも一緒に頼めよ、フェルト。」
じゃあ、冷たいものでも、と、フェルトが内線で連絡する。ちょっとトイレ、と、洗面所に移動して、携帯端末で連絡を入れた。相手は、「え? そんなことあったっけ? もう、忘れてるだろ? 気にしすぎだよ。」 と、軽く返事を返しやがった。
・・・・・おまえ、他人様のファーストキスを奪って、それかよ? ライル・・・・・・
普通の生活をしていたライルからすると、キスぐらい、大したことじゃないということになるのだろう。だが、やった相手は純粋培養テロリスト様だ。完全な箱入り娘のフェルトにやったのが、おかんとしては許せない。
「キラか? 頼みがあるんだけど・・・・・ああ・・・・うん・・・・」
すかさず、天然電波の大明神様に連絡して、報復措置は手配した。忘れているなら、別の方法で、フェルトの溜飲を下げてもらうしかない。洗面所から戻ったら、飲み物が届いていた。
「大丈夫? 」
「ああ、なんともない。なあ、フェルト、明後日、MSの模擬戦があるんだが、ライルの相手はキラだ。楽しみにしてろよ? 」
「え? それ、危ないんじゃないの? 」
キラが三年ほど前に、エクシアの腕ちょんぱしたことは、フェルトも知っているし、この間も、ガガ部隊を隠れてこっそり攻撃していたのは知っている。現役は引退しているが、それでも現役並みの「白い悪魔」だ。ライルなんてイチコロのはずだ。
「殺しはしないさ。でも、ボコボコにさせるから、それでお返しだと思ってくれ。」
「・・・・・ニール、それ、可哀想・・・・」
「可哀想なもんかっっ。フェルトのファーストキスを奪っておいて、忘れてるなんて、ティエリア風に言うと万死だぜ。」
「大袈裟だよ? 別に気にしてないのに。」
「いや、こういうことは、きっちりと落とし前をつけさせないとな。」
まったく、何をしやがるんだか・・・と、溜息をつきつつ、フェルトの渡してくれたミックスジュースを、ちゅーと吸い上げる。その様子にフェルトは、ニパッと笑った。なんだかんだと言っても、ニールは、自分のお母さんだ。そんな些細なことで腹を立ててくれる。
「それよりね、プールで着る水着を買ったの。ラクスが選んでくれたから、ちょっと大人な雰囲気なんだよ? 楽しみにしててね。」
「おう、それは楽しみだなあ。もう梅雨明けだもんな。・・・・早く復活しないと、フェルトとデートもしなくちゃならないな。」
「うふふふふ・・・・・そっちもね。用意したの。」
大人のデート用と、フェルトが言うので、そういうことなら、こっちも用意しないと、と、ニールも微笑む。本物の恋人が出来たら、そういうデートで慌てないように、シュミレーションさせてやるからな、なんて、ニールは言う。完全に、保護者だから、擬似デートのつもりであるらしい。
作品名:こらぼでほすと 拾得物7 作家名:篠義