こらぼでほすと 拾得物8
あれから、一ヶ月近く経過している。そろそろ、本体も形になっているはずだ。入れ替えるなら、一緒に上がるか? という虎からの提案だ。
「どうする? ティェリア。」
「ちょっとまちぇぃ。」
きゅいーんとティエリアが目を金目にして、ヴェーダと本格的にリンクする。培養ポッドの確認をすると、まだ、もう少し小さいことが判明した。リジェネも、もうちょっとだね、と、返事する。
「まだ、だみだ。」
「そうか、それなら、エターナルを次回、宇宙へ上げる時にするか。」
定期点検だから、それほど長いこと地上に降ろす予定ではない。長くても三週間ということになっている。基本的にエターナルは、プラントのドックに繋留されている。地上より宇宙での運用に適している艦だからだ。
「しょれでおねぎゃいすりゅ、たきぁ。」
「わかった。それじゃあ、せいぜい、おまえたちのママの世話をしてやってくれ。」
「ええ、そちらは了解です。」
僕らも楽しみなんです、と、アレルヤも頷く。
寺へ帰ったマイスター組は、客間を占領している。フェルトは脇部屋のひとつを借りているし、もうひとつの脇部屋がニールという陣容だ。
「不埒なことをしたい時は、マンションへ帰れ。」 という、三蔵の唯一の警告に従い、そういう時は、ライルが刹那を引っ張ってマンションへ戻っている。さすがに、ミニサイズの女王様では、そういうことはできないから、アレルヤとティエリアは寺に居座っている。
これだけの人数になると洗濯物も、ものすごいことになるから干すのも、結構いい労働になる。ニールが、フェルトを助手にして洗濯物を干していたら、ティエリアがやってきた。きゅっきゅっと鳴る青いサンダルだから、すぐにわかる。
「にーるぅ。ありぃるりぁとこうたいしりょ。」
「え? あとちょっとだからさ。」
「だみだ。きおんがあがっていりゅ。へやにはいりぇ。」
ティエリアのほうは宣言通り、きっちりしたタイムスケジュールを組んで、ニールの管理をしている。午前中とはいえ、そろそろ温度が上がってくる時間だ。
「ニール、交代しよ? 」
「ぐだぐだ言ってねぇーで、三蔵の相手しこいや。」
「お? おお。」
アレハレルヤに手にしていたものを奪われると、仕方なく家のほうに踵を返す。ティエリアは、そちらについてきた。
「麦茶。」
「はい。」
居間では、三蔵が書き物をしていて、顔も上げずに、そう命じる。足音で、誰だかわかるらしい。冷たいものを用意して差し出す。ついでに、ティエリアにも、小さなコップを渡す。
「身体が小さいから、水分もこまめに摂ったほうがいい。」
「わきゃった。にーるぅものめぇ。」
「うん。」
三人で、麦茶を飲んで、ほっと一息吐くと、すぐに、ニールは立ち上がる。今度は、掃除だ。客間やら玄関やら廊下に、ささっと掃除機をかけて、それが終わると、昼ごはんの準備なんてことになる。
「ニール、掃除機はかけておいた。本堂の廊下はライルがやっているが、他にあるか? 」
刹那が、客間から掃除機を持って出てくる。すでに、こちらも終わったらしい。
「それでいいよ。おまえらさ、せっかくの休暇なんだから、家にばかりいないで、ちょっとは出歩いたらどうなんだ? 」
「今のところは予定がない。昼は、フェルトとアレルヤでやるから、おまえは休憩していろ。」
「はあ? 」
「ティエリア、監視しろ。」
「りょーきゃいだ。しぇちゅにゃ。」
ちまちまとティエリアが歩いてきて、背伸びしてニールの指を掴む。そのまま、ずるずると前へカニ歩きされると、ニールも従うしかない。なんだか、家事のほとんどを刹那たちが代わってくれるので、いつもより、よっぽど楽だ。
「いや、あのさ。」
ようやく、戦いが終わって、地上に降りたのだから、普通は逆だろう、なんて、ニールは反論するのだが、誰も聞く耳がない。回廊を歩いていると、ライルが廊下を拭き掃除しているのと、出くわした。
「ライル、そんなにしなくてもいいぞ? 」
「いや、いい運動だぜ? これは。・・・・そうそう、あんたさ。ちょっとは、ゆっくりしたほうがいい。」
クーラーいれといたから、ちょっと横になってなよ? と、ライルまでサボれと勧める。何事だよ? と、ニールは思うのだが、誰も答えてくれない。唯一、悟空が、「たまに戻ったから、おかん孝行してるんだから、付き合ってやれば? 」 とは言った。それも、どうなんだろう? と、首を傾げてはいる。
「ほりゃ、よこににゃれ。」
敷かれたままの布団を、ぽんぽんと叩いて、ティェリアが睨む。別に、体調はよろしいんだが、とは思うものの、小さいティエリアに言われると、どうも逆らえない。
「おまえも付き合えよ、ティエリア。」
「しょうがにゃい。」
ぽてんと、ふたりして寝転がって、のんびりと雑誌を眺めていたら、ふたりして沈没した。ティエリアは、小さくなった身体なので、体力的に普段より劣るのだ。
そろそろ、お昼ごはんだよ? と、フェルトが呼びに来たのだが、どうしても起こせない。携帯端末で写メしていたら、アレルヤがやってきた。やっぱり、アレルヤも微笑んで、それを眺めている。刹那とライルまでやってきたが、やっぱり、にっこりと微笑んだだけだ。
「おまえら、何人がかりで起こしてるんだ? 」
最終的に、戻ってこない全員に、三蔵までやってきて、ちょっと立ち止まった。ティエリアを抱き込むようにして、ニールが寝ている姿があったからだ。腕枕して、そっと手を添えて寝かせているのは、どこをどう見ても、立派なおかんだった。
「起きるまで寝かせとけ。・・・・・おまえら、あんまり、うちの女房の仕事を、あからさまに取上げるな。気付くぞ? 」
全部を取上げてしまったら、不審に思うだろうと、三蔵が注意して、フェルトに、「メシをよそってくれ。」 と、命じて踵を返す。悟空なら、「それくらい自分でしろ。」 と、言うところだが、フェルトは三蔵の頼みに素直に居間のほうへ戻った。
「なんか平和を象徴しているような光景だね? 」
「この人、ほんと、こういうのが似合うよな? ・・・・なあ、刹那、午後からやらないか?」
「構わないが、今夜は店があるぞ? ライル。」
「うん、だから、軽いので一発。アレルヤ、留守してもいい? 」
「うん、いいよ。僕らは、今夜は店じゃないからね。好きなだけ、どうぞ。」
じゃあ、刹那たちは、晩御飯はいらないね? と、アレルヤは確認して、やっぱり、のんびり、その光景を眺めている。マイスター組は、全員が揃って店に出るのではなくて、交替になっている。ティエリアは、期間限定なので一番人気なのだが、いかんせん身体が小さくて、連日では体力が続かないからだ。だから、一日おきの出勤になっている。昨日、出勤だったから、ティエリアも疲れているのだろう。これだけの視線と会話でも起きないのは、そのためだ。
「そのまま、明日の朝、ラボへ行って来る。組織との定期連絡だ。」
「うん、了解。・・・・・来週というか、今週の週末ぐらいにエターナルが降下するらしいよ。そっちの情報も拾っておいてね。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物8 作家名:篠義