こらぼでほすと 拾得物8
「了解した。」
会話は終わったが、まだ、その光景を眺めている。たぶん、これは、今限定で、とても珍しくて、目を離せないらしい。
のんびりモードで寺が動いている数日後、午後近くに、アスランとキラがやってきた。明日は土曜日だから、そうめん流しと花火大会をするという連絡のためだった。
「もうすぐ、虎さんたちも帰って来るだろ? それからにしたら、どうだ? 」
ただいま、虎たちは、エターナルの地上降下のためにプラントへ出向いている。そろそろ降下してくる予定のはずだから、スタッフが全員揃ってからのほうが良いだろうと、ニールが意見する。
「もちろん、本格的なのは、そうします。だから、プレイベントというか予行演習をやろうと思うんですよ。ほら、去年は流れなくて困ったから。」
昨年は、全員で竹を細工してやったのだが、うまく流れなくて失敗だったのだ。大人組から、散々にバカにされたので、今年は完璧にやりたいと、年少組は張り切っていたりする。このイベントは、年少組が主になってやるからだ。
「あーそうだったな。夕方までに竹を細工して、涼しくなったらやり始めるか? ツマミとか、その他の料理も準備したほうがいいな? 」
「そっちは、デリバリーを用意しますから、ニールには、そうめんを茹でるほうを手伝ってもらえませんか? 」
20人近い人数となると、そうめんも100把近く茹でることになる。そうなると、責任者がちゃんと管理して茹でないと、おいしいそうめんができないからだ。
「わかった。何把くらい茹でる? 悟空が、だいたい10把は食べるだろうから・・・・・70くらいか? いや、80でもいいか? 」
「うーん、残すぐらいのほうが安全だから、80ぐらいですね。」
寺の境内を借りるから、ニールとアスランで打ち合わせなんてことになる。そうめん流しをやって、花火をやるには、それなりの広さが必要だし、ここなら、全員の住まいからも近いからだ。
「鍋とコンロを表に出してやろう。そのほうが動き易い。」
「そうですね。・・・・・それから、花火は、着替えて浴衣でやりますので、そのつもりで。」
「ご大層な・・・・また、ラクスか? 」
「ええ、でも調達したのは、今回はカガリです。せっかくだから、情緒のある格好で、ということらしいですよ。もちろん、当人も乱入してきます。」
「ああ、それはちょうどいいじゃねぇーか? フェルトも喜ぶしさ。」
カガリとフェルトも顔見知りだ。どちらも、なかなか時間が合わせられなくて、この四年でも数えるほどにしか逢っていないが、メール交換はしていたらしい。
「確かに、そうでした。ティエリアには、また、女物だと思いますが・・・・」
「・・・・ああ、はいはい・・・・トダカさんも呼んでくれよ? 」
もちろんです、と、アスランとの打ち合わせが、一段落したから、お茶を入れ替えようと、立ち上がる。そろそろ、お昼だから、そちらの準備もある。カレーを大量に作ってあるので、多少、人数が増加しても問題はない。キラは、刹那とゲームをしているので、何かを破壊することはないだろう。
だが、逢魔が刻とでもいうように、いきなりラクスが現れたのには、びっくりした。
「うわぁっっ。」
「イヤですわ、ママ。人を化け物のように・・・・・」
ここに、三蔵がいたら、確実に、「おまえは暗黒妖怪なんだから、当たり前だ。」 と、ツッコんだに違いない。生憎と、本業で出かけていた。
「本日は、私くしがコーディネートしたデートをしていただきます。アスラン、後はお願いしますね。フェルトとニールは、今夜は、うちに泊まりますから。」
「ああ、わかった。明日、午後には返してくれよ? ラクス。そうめん流しをするから。」
はい、承知しております、と、歌姫様は、アスランに頷くと、フェルトとニールの腕を掴んで玄関へ歩き去った。
そのちょっと前、寺の山門の周りで、アレルヤとティエリアは水撒きをしていた。境内に、バンバンと水を撒き、気化熱で温度を下げていた。
「ごきげんよう、ティエリア、アレルヤ。」
背後からかかった声に、ティエリアは誰だか判明して、アレルヤにしがみついた。毎日のように、いろんな服を着せ替えされるもんだから、歌姫の姿がトラウマになってきている。
「今日は、何もしませんよ? ティエリア。・・・・アレルヤ、セルゲイさんのお見舞いに行かれるつもりでしたら四日後にAEUへ私くしが自家用機で移動しますので、同道なさいませんか? 」
「え? 」
唐突に切り出されたのは、アレルヤも気にしていたことだ。スメラギから居場所は教えて貰ったのだが、小さくなったティエリアのことが心配で出かけられなかったのだ。それに、エターナルが宇宙へ上がる時に、もう一度、ヴェーダに戻らなくてはならないから、諦めていた部分もある。
「セルゲイさんは、AEUの医療機関にいらっしゃいます。エターナルが再度、宇宙へ上がるまでに出かけられないと逢えませんよ? 」
「でも・・・・」
ティエリアを、一人にするのは・・・・と、言いかけたら、その当人に足を踏まれた。体重が軽いから痛くはないが、どうしたの? と、見下ろしたら、睨まれていた。
「らくしゅくりゃいん、ありぃるりぁをどうどうしゃせてくりぃ。・・・・・・いってきょい。おりぃのほうは、しんぴゃいにゃい。にーるぅもふぇりゅともいりゅからにゃ。」
「ティエリア・・・・でも・・・・」
「いっしゅうきゃんくりぁいらろ? しぇちゅにゃもいりゅから、にーるぅのきゃんりはだいじょうぶだ。・・・・・きににゃっていりゅくしぇに、おりぃにきをちゅきゃうにゃ。」
セルゲイのことも、看病に行ったマリーのことも、アレルヤは気にしている。怪我をして医療ポッドに入ったマリーとは、戦闘が終わってからも逢えなかったからだ。
「大丈夫? ティエリア。」
「だいじょうぶにゃ。いってきょいっっ。ちゃんとまっていりゅきゃら。」
ここに居るから、と、ティエリアは笑っている。大事なマリーと、マリーを託してくれたセルゲイのことを心配していたことは知っていた。歌姫が案内してくれるなら、行って来い、と、ティエリアは思っている。一週間くらい、どうってことはない。なんせ、その前は、四年近く待っていたのだから。
「では、四日後です。よろしいですね? 」
話は決着した、と、歌姫は、そのまま家のほうへ入っていった。それを見送ってから、アレルヤは、ティエリアを抱き上げて抱き締めた。
「ごめんね。」
「まちゅのは、にゃれた。」
「・・・うん・・・・」
「ただし、じぇったいに、きゃえってこい。」
「・・・うん・・・・もちろんだよ。」
ティエリアも、ぎゅっとアレルヤの頭を抱き締めて、それから笑った。別に今生の別れでもあるまいに、と、思ったからだ。ただ、突然いなくなったことがあるから、離れることが不安になる。それだけなのだ。
しばらくして、フェルトとニールを両手で捕まえて出てきた歌姫が戻ってきて、「おりぃもいくにゃーーっっ。」 と、駄々込ねたティエリアに、アレルヤも大笑いした。
作品名:こらぼでほすと 拾得物8 作家名:篠義