再会
「待ってよ」
授業が終わった瞬間、官兵衛殿は立ち上がった。反射的にその腕を掴む。
「何をする、離せ」
再会して初めて聞いた官兵衛殿の声は、俺への文句だった。彼らしいと言えばらしいのかもしれない。
「そんなすぐ行っちゃうことないじゃん。俺はもっと話がしたいなー」
「卿は……初対面の人間に対して、いつもそのように馴れ馴れしいのか」
「ん?」
んんん?
何か――変だ。
やっと会話らしい会話が出来た、と浮かれる暇もなく、俺は心の中で首を捻った。
なんだこの違和感。
頭を切り替えようとして、――そうするまでもなくすぐに気づく。
官兵衛殿、俺が何も覚えてないと思ってるんだ。
授業前の俺の冗談をそのまま受け止めたんだろう。それであんな探るような目をしたのか。
……ああもう、悔しいな。
あの頃はこんなじゃなかったのに。
両兵衛と称されたあの頃なら、官兵衛殿が俺の言葉の真意を読み違えることなんてなかったし、俺が官兵衛殿の思考を読み損ねることもなかった。
なのに。
でも、もしかしたらこの誤解はちょうどいいのかもしれない。
俺の中の計算高い部分がそう囁く。
何も覚えていない振りをした方が、官兵衛殿が俺を避けた理由を探りやすいかもしれないと。何も知らないふりをしていれば、この人も俺を無下に切り捨てられないだろうと。
「……どうしたのだ。具合でも悪いのか」
黙り込んでいると、官兵衛殿が戸惑ったように声をかけてきた。
ほら、彼は相変わらず優しい。
「いや、別にへーき。それよりさぁ、携帯出してよ」
「なんだ」
いぶかしみながらも、官兵衛殿は携帯を出した。つけ込みがいのある人だなぁ……。
それが、相手が俺だからなら嬉しいんだけど。
見るからにごつくて重い、一・二世代は古そうな携帯をさりげなく手に取る。俺のと会社は違うけど、携帯の操作なんてそう大きくは変わらない。メニューを呼び出そうとボタンを押した。
「……あれ」
ロック掛けてる。