こらぼでほすと 拾得物9
大人のデートというのは、夜明けのコーヒーか、目覚めのコーヒーが、フィニィシュです。と、歌姫様はおっしゃって、親猫のベッドを急襲し、そこで、目覚めのコーヒーを一緒に、お飲みになった。
「あのな、ラクス。そこまで教えるんじゃない。・・・・フェルト、そういうのは、結婚を前提としてだな。」
「そういうことをおっしゃるから、昭和臭いとか、年齢より老けてみえるとか言われるんですよ? ママ。」
「誰が言ってんだよ? 」
叩き起こされて、コーヒーを一緒させられている親猫は、あふーと大アクビだ。久しぶりに、外へ出たから疲れたらしい。時計を確認したら、そろそろ寺へ戻らないと、いけない時間になっている。
「フェルト、俺、先に戻るから、後からラクスと来い。」
パタパタと起き上がってシャワールームへ走りこんだ。午後一番から、竹を細工するために集合がかかっていた。細工を手伝うつもりはないが、飲みものの用意とか、おやつとか、いろいろと雑用はある。だが、着替えて部屋から飛び出そうとしたら、両腕を、がっしりと、歌姫と桃色子猫にホールドされた。
「こらこら、おまえさんたち。」
「トダカーズラブの方たちが手伝いに来ているはずです。ですから、ママは、私くしたちと、夕方に参りましょう。」
「ニール、食事してないんだけど? ダメでしょ? 抜いたら。」
「だいたい、この温度の高い時期に、外で走り回ったら、どういうことになるか、忘れていらっしゃいますの? 」
ニコニコと、ふたりは微笑みつつ、食堂へ親猫を連行する。お昼には少し早いが、ブランチだと思えば、問題はない。それを食べて、昼寝をさせてから、寺へ戻るつもりで、歌姫と桃色子猫は、親猫を起こしに来たのだ。
歌姫の言葉通り、午後から、トダカーズラブの面々が、トダカと共にやってきた。本格的な道具も携えてくれている。
「グラインダー? これ、すっごい便利っぽいな。」
「なんだ、シンは、グラインダーも知らないのか? 整備部に置いてあるんだぞ? 」
竹自体は、アスランたちが手配して境内に運び込んだが、工具は単純なものだけだ。今回は、そうめんのツユを容れるものも、竹で、と、思っていたが、それを削るのもやすりとか、サンドペーパーという原始的なものでしかない。昨年の失敗から、もうちょっと時間をかければ、と、思っていたが、トダカは工具のほうで解決するつもりだったらしい。
「さすが、トダカさん。」
なぜだか、ハイネがちゃっかりと境内にいる。この騒ぎには、是非、参加しようと狙っていたらしい。
「竹を割るところからか・・・・・一メーター五十というところですか? 」
「そうだな。キラ様、始めましょうか? 」
まず、竹を半分に割り、節を取るのが、流すほうの部分だ。これと、節ごとに切り、長さを調節して、口元と手元をヤスリで丸くするのが、容れ物のほうということになる。それらの打ち合わせをして、年少組と親衛隊が作業を開始する。
「アレルヤ、竹を割るほうを手伝ってくれ。ティエリアは、容れ物のほうだ。」
竹を割るのは力仕事だから、アレルヤの担当だ。刹那とライルは、足場を組むほうの手伝いに借り出されている。マイスターたちには、この大掛かりには驚く。たかだか、そうめんを食べる為に、ここまでするなんて考えられないからだ。
「刹那、そっち終わったら、こっち、手伝え。」
そして、悟空は、そうめんを茹でる準備を始めている。大型のガスコンロを設置して、大鍋に湯を煮立てる。さらに、レイは、飲みものを、大きな盥に氷を放り込んで冷やす準備をしている。
唯一、手伝っていないのは、三蔵だけだ。当初は、ニールも手伝う予定だったが、トダカと歌姫が止めた。日中に、走り回ったら、翌日、ダウンするからだ。そうめんの束をバラしつつ、刹那が、ぶすっくれている。
「悟空。」
「んー? 」
「俺も、ニールとデートしたい。」
「・・・・すれば? でも、おまえ、ライルは、どーすんだよ? 」
「放置する。」
ニールとお出かけしたフェルトが、羨ましいらしい。まあ、よくよく考えたら、それまでは、刹那もお出かけしていたのだ。今回降りてから、ニールと二人で出かけたことはない。ニールにだけ甘ったれな刹那にすると、フェルトだけ連れ出したのが差別だと思われているらしい。
「涼しいとこな? 」
「ああ。」
「ライルも、刹那とデートしたいんじゃないか? 」
「何度かしているから十分だ。」
刹那は、見た目は完璧に親離れしているように見えるが、実は、親離れしていない。年少組は、それを知っているから、デートしたければして来い、と、言うだけだ。
「一緒に、ごはん食べて、散歩するぐらいなら、いつでもできるだろ? フェルトを苛めるなよ? 」
「いじめない。」
「うん、行ってくればいいよ。」
悟空は、おかんの管理担当者だから、刹那も筋を通している。許可が、出れば実行する気は満々だ。
「よおう、私も参加するぞーーーっっ。」
威勢よくカガリが現れた。こちらも、カガリンラブという親衛隊を引き連れている。これは、そうめんが足りないな、と、アスランが追加しようとしたら、ちゃんと、カガリは、自分たちの分のそうめんも持参していた。
「浴衣は名前のメモを張ってあるからな。あれ? ラクスはまだか? フェルトは? 」
「まだだよ、カガリ。三時ごろには来る。」
じゃあ、私も手伝う、と、カガリも、そうめん流しの設置に手を出す。なんだか、大事になってきたな、と、ハイネは思っているが、まあ、気にしない。『徹底的に楽しめ』 が、吉祥富貴の決まりだ。これなら、鷹やアイシャたちも呼んだほうがいいな、と、連絡を始めている。
歌姫様たち御一行が寺へ到着したら、とんでもないことになっていた。ちゃんと、そうめん流しの台は組みあがっていたが、どういうわけか水掛け祭りになっていたからだ。
「アスハァァァァーーーーてめぇーーーーっっ。」
「こいっっ、シンっっ。受けて立つぞっっ。」
「ごくーー行くよーー」
「キラ、アスラン使うのは反則っっ。」
「こらぁーレイっっ。・・・・・うがっっ・・・てっめぇーもう本気出すっっ。」
「うきゃあーーーっっ、はりぃるりぁっっ、はんげきちりょーーーっっ。」
「おっけー、やってやるぜっっ。」
というような叫び声と共に年少組が、水の入った風船を手にして追いかけっこだ。親猫の姿に気付いた刹那は、それらを無視して走ってきた。
「遅いぞ、ニール。」
「何やってんだよ? これは。」
「カガリがさ、いきなり、水の入った風船を投げ始めたんだ。」
すでに、年少組にやられたらしいライルが、びしょびしょでやってきて説明してくれた。
装置が完成したら、いきなりカガリが投げ出したらしい。当たると割れるので、怪我はしないのだが、全員びしょぬれになっている。カガリとトダカの親衛隊は、笑いつつ、その風船を製作していて被害には遭っていない。
「フェルトーひさしぶりーーーっっ。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物9 作家名:篠義