比翼連理
-3-
「くっ」
「って〜」
「ここは……?」
様々に衝撃を受けたことによる痛みに耐えながら、アテナ神殿ではなく、沙羅双樹の園に移動していることに気づく。
また、自らの肉体には聖衣が纏われていることにも。
「何故、あなたが……ここにっ!?」
悲痛なアテナの叫びに物事を理解できないまま、一同がアテナを見る。
そして、アテナの視線の先には―――。
「ハーデス!?」
星矢と瞬がその名を告げる。闇色の冥衣を纏い、漆黒の翼を広げた者が禍々しい闇と共にそこにあった。
そして、その腕の中には。
「シャカッ!」
走り出そうとするサガたちをアテナの小宇宙が制止した。
「何故です?何故止めるのです!?」
問うサガの声に答えず、アテナは単身歩みを進める。
「貴方は―――やはり滅してなど……いなかったのですね」
ふっとハーデスの口元を緩めた。
『小娘ごときに余を討ち滅ぼすことが本当にできると思っていたのか?』
くっと唇をかみ締めるアテナに向かい、嫣然たる微笑をハーデスは浮かべていた。
初めて邂逅した者はただ、その小宇宙の強大さに瞳を見開き、息を呑むばかりである。あまりの小宇宙の強大さに黄金聖闘士たちに戦慄さえも走っていた。
そしてアテナもまた、エリシオンで邂逅した時よりも、さらなる力を秘めた強大な小宇宙を纏うハーデスに背筋が冷えていくのを感じた。
「……“地上”を手に入れるために、この地に現れたのですか?」
『そうだ』
冷徹な響きが辺りを覆う。黄金聖闘士たちに緊張が走った。
冥王はゆっくり周囲を見渡し、見下すような凍る瞳を差し向けたが、やがて腕の中に抱く者へと視線を注いだ。
『余が欲した地上……地上の光を。ようやく見つけたのだ。ようやく……』
ふわりと温かな小宇宙が伝わってくる。まるでアテナの小宇宙のように慈愛に満ちた小宇宙。
腕の中に抱く金色の光を眩しそうに、愛しげにみつめるハーデスの姿がそこにあった。
「地上の光?シャカが地上の光だというのか!?」
アイオリアが叫びをあげた。
「アイオリア。シャカは―――」
「アテナ、シャカを助けて下さい!あいつは貴女にとっても大切な者ではないのですか?」
「アイオリア……」
激しく攻め立てるアイオリアに戸惑うアテナ。その両者の前にすいと立ちふさがる者がいた。
「アイオリア!ハーデスだってずっと、ずっと探していたんだ。失くしてしまった光を彷徨い求めてたんだ。大切な、何よりも大切な愛しい人を!永遠にも等しいほどの時間の流れの中で、どんなに苦しみ、悲しみもがいていたか、貴方はわかる!?」
瞬が声を上げ、大きな瞳から溢れ出る涙はとめどもなく流れ落ちていた。
「瞬、よせ。」
カノンが押さえようとする腕を振り払った瞬はアテナに詰め寄った。
「貴女だってわかっているんでしょう!?わかってしまったんでしょう!?ハーデスが欲していたのは―――この世界ではなくて、ペルセフォネというハーデスにとって……何よりも、誰よりも大切な人を欲していただけなんだということを…ねぇ…っ!?答えてよっ……沙織さんっ!」
「瞬…私は…私は―――」
アテナの瞳から一粒の涙が地に向かって落ちていく。
気づいてしまった冥王の悲しみ。
愛を知らなかったんじゃない。
愛を知っていたから。
愛を見失ってしまったから。