比翼連理
-5-
―――アテナ、私が憎いですか?私に与えられた力が。
突如、がくりと膝折るアテナに驚き、周囲にいた瞬やサガたちが駆け寄る。
「どうなされたのです!アテナ」
「大丈夫か!?」
はぁはぁと荒く息つくアテナはさらに顔面蒼白となっている。まるで何かから耳を塞ぐように両方の耳を強く押さえていた。
「私は…私は…っ!いやっ!!聞きたくないっ!!」
―――何故、貴方なのです!?地上は私が……支配する!
「一体、貴様は何をしたのだ!アテナに!」
ぐっと奥歯を噛み締め、睨みつけるサガにハーデスは残酷な笑みを返した。
『心話にて教えてやったまでだ、己の犯した罪を。どうやら、やっと、思い出したようだな、アテナ?さて、貴女の答えは?』
―――今、冥界と事を交える訳には参りません。
その申し出はお引き受けするほうが宜しいでしょう、父上?
―――しかし、アレの母親が納得するはずがない
―――では、ハーデスを敵に回すので?
たった一神の為に必要のない血を流すのですか?
―――ううむ。だが、地上を任せるのはアレしかおるまい
―――地上のことなれば、どうぞこの私にお任せくださいませ
―――ならば、どうやって母親を納得させる?
―――納得させる必要などないのでは?
攫わせれば良いのです。彼に。
本当に欲しければ冥界の果てからでも飛んでくるでしょう。
手筈は私が整えましょう
ソウシテ貴女ハ地上ヲ手ニシタノデハナイノカ?
無垢ナル者ヲ裏切ッテ。
「その者は―――5体の聖衣と引き換えに柘榴の実を5粒口にしたのですね?冥界の物を口にした場合は……冥界の掟に縛られ、従わなければならない」
これ以上、蒼白になりようがないほど、血の気の失せた顔を上げたアテナは応えた。
「アテナ!?」
『善き答えだ。アテナよ。その潔さに免じて、一つ良いことを教えて差し上げよう。そなたが愚かにも“冥界の秩序”を乱したおかげで、冥府に幽閉していたティターン一族が地上へ逃れた。彼らは速やかに復讐を遂げに来るだろう』
暗黒の渦がハーデスをゆっくりと包み、その闇に溶けていく。
「ティターン一族!?待って、ハーデス、貴方は―――」
『誰もそなたの味方にはならないだろう。アテナ、貴方は秩序を乱す神だからな』
暗闇が空を覆いつくしたのち、やがて光が再び降り注ぐ。
さわさわと、風が主なき花園を通り過ぎた。