比翼連理
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「―――まだ、起き上がってはならぬ」
凍てつく大地に降り注ぐ光のように柔らかな声音。差し向けられる瞳もまた等しく。
「……冥王。私にとっておまえの存在は一体なんなのだ?わからない」
喘ぐ様に言葉を紡ぐ。
「アテナの聖闘士……黄金聖闘士、乙女座のシャカよ。恐らく、そなたには一生解けぬ難問であろう。そなたがシャカという『人』である限り」
ふわりと身体が舞い上がり、冥王に抱かれて、元の蒼い光が満ちる場所へと戻された。
「ここはそなたの聖域。余、以外は誰も踏み込むことなどできぬ。安心して、しばしの眠りにつくがよい」
深い海の底のように青い色合いの絹で覆われた寝台に、シャカを横たわらせ眠りへと誘う。
額に翳す手の冷たさと反するように、温かで柔らかく、けれどもどこか翳りのある眼差しがシャカを見つめる。
「何故……そのように私を見る瞳は悲しく、優しい?何故、私はそのような…おまえを見るのが…苦しく、切ない…?」
まどろみに身を委ねながらも、抗うように腕を伸ばす。触れた冥王の頬から、雫が指先を伝う。
ぽつりと雫が降るのを感じながら、シャカは深い眠りに落ちていった。
「―――ペルセフォネ。貴方は、この者が感じたように、どこかで私を想ってくれていたのか?永遠に手に入らぬ貴方の心を……この者に融けてしまった貴方を求める私を愚かだと…狂おしいほどに焦がれる私を…愚かな男と蔑むか?」
もしも、あの時、出逢わなければ。
もしも、あの時、激情を抑えることができたなら。
きっと貴方の愛した世界は光に満ち、貴方が地上の覇者となって、人間たちを導いていたのかもしれない。
けれども、私は貴方と出逢ってしまった。
初めて知る感情を抑えることなど、できなかった。
美しく、破壊的な引力に惹き寄せられ、囚われた心を解放する術も知らぬまま、己の激情のままに求めることしかできなかった。
そして、今もまた、繰り返す。
愛を知らぬとアテナは言った。
そうなのかもしれない。
奪うことしかできぬ。
強いることしかできぬ。
失うことを恐れることしかできぬ。
貴方は光を与えてくれたのに。
安らぎを与えてくれたのに。
求めることしかできぬ私は―――愚かだ。