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比翼連理

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8. 嵐ノ夜ニ


-1-

 いつも穏やかな笑みを絶やさない牡羊座のムウは些か苛立ちを匂わせながら、教皇の間を訪れたと同時に、開口一番、彼の得意とする爽やかな弁舌が始まった。
「アテナはいまだ出てこられる気配がないのですか!?一体、何を思ってあのような場所に篭城なさっているのか。まったく理解に苦しみます。海底の塔に篭って溺死しそうになったり、瓶に篭って失血死しかけたりと、碌でもないことばかり仕出かして。今度は何をやらかそうというのでしょうね!それはさて置き。そもそも、サガ。貴方がそばにいながら。愚かな行動を御止めするのが目付け役である教皇の仕事ではありませんか」
 窓のほうに身体を半分傾けながら、悠長に沈み行く夕陽を眺めているサガのその横顔に、まるで射殺すような眼差しをムウはぶつけた。
 悪意ある視線を受けながら、顔色ひとつ変えないサガの代わりに、ムウに場を譲るように遠巻きになっていた青銅組の一人がぽつりと呟いた。
「別に沙織さんも好きで瓶に篭ってたわけじゃないと思うけど……」
 ムウの言葉はあまりに酷い言い草だと、少なからず好意を抱いている星矢が小さく反論したのだ。
「黙らっしゃい」
 ぴしゃりと言い放ち、星矢を睨み付ける。ぴくっと小さく強張った星矢の姿をムウは無視しながら、サガになお詰め寄った。
 幾分声のトーンを落として。
「サガ、貴方…何か知ってるんじゃありませんか?」
「私が何を知っていると?」
 すっと視線を移し、危険な光を放ちながらサガはムウを見た。以前にもこれに似たような場面がなかったか?その場に居合わせた面々が互いに目配せしあっている。
「……シャカが攫われた後、アテナと話をしていましたよね?その後にアテナは沙羅双樹の園に篭ってしまった。知っているどころではなく、貴方がアテナを追い詰めた当人ではないのですか、と聞いているのですよ」
 冷え冷えとした教皇の間にダンッとムウの威嚇した踏み音が響く。
「おいおい、ここで千日戦争でもやらかすつもりか?」
 過去に同じ場所でシャカと争いそうになったアイオリアが諌める。
「ムウ、今はアテナのことではなく、ティターンの動向についての会議の場だ。各自持ち寄った情報の報告をサガにして、今後どのように対処するかが先決であって……」
 ぎろりとムウに睨み付けられたアイオリアは押し黙った。
「守るべき対象者があのような場所にいること自体がそもそも問題ではありませんか?アイオリア。それともアテナ御自ら、出陣なさるおつもりか?――よかったですね、アイオリア。君が倒れた後はアテナが処女宮をお守り下さっているのだから、十二宮を突破されるということなどないのですから。サガ教皇もさぞかし安心でしょうね」
 最大限の侮蔑を込めたムウの言葉にアイオリアも色めき立った。
「なんだと…貴様……!」
「ほう。面白い。やりますか?私と」
 もともと、そりの合わない二人である。ここぞとばかりに互いが睨みを利かせる。
「いい加減にしないか、二人とも」
 嵐の前の静けさを思わせるサガの声が通る。表面的には穏やかなままに見えるサガの表情だが、その奥に潜む獰猛な獣の気配を感じ取った二人は黙ってサガに従った。
「アテナはアテナなりに思うところがあるのであろう。それは私たち人間の考えなど及ぶところではない。ムウ、おまえが許せないのはアテナがお篭りになられたことなどではなく、その場所が問題なのであろう?」
 サガに哀れむような眼差しを向けられたムウは、かっと血が逆流するのを感じた。
「沙羅双樹の園はシャカの聖域!アテナであろうとも、土足で踏み込むなど許しはしません。それは……聖戦の折とて同様のこと!私は貴方を許すことなど決してしないっ!」
 吐き捨てるように、絞り出すように呻く。シャカはムウにとって唯一無二の友である。その大切な友の聖域を踏み荒らす者の存在は神への冒涜にも等しいといえる。
 ムウにすれば禁を破った者たちは許しを請うこともなく、存在しているのになぜ、シャカだけが闇の世界に連れ戻されなければならなかったのか?と腹立たしいのである。
 ムウの激しい憎しみの炎は復活の時を経て、なおも強まるばかりであった。


作品名:比翼連理 作家名:千珠