二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

比翼連理

INDEX|28ページ/79ページ|

次のページ前のページ
 

-2-

 コキュートスを封じ込めた瞳で双子神を容赦なく威圧する冥王。双子神は長身を限界まで折り畳み、頭を垂れ傅く。絶対君主の言葉が氷雨のごとく双子神に降り注いだ。
「……一体何事が起きた?この惨状はなんだ?おまえたちは何をしようと――この神聖なる場に侵入した?ここは……おまえたちがあるべき場所ではないはず」
 すらりと鞘から剣を抜き放ち、一歩、また一歩と双子神の前に進む。
 双子神は魅入られたようにその場から動けず、ゆるりと侵食する恐怖にうろたえた。
「のう?……タナトスよ」

 ごくり。

 タナトスは己の溜飲が響き渡ったのではないかと錯覚するほどである。絡みつくような冥王の視線とともに、彼の愛剣がタナトスの整った顎のラインを冷たく愛撫した。
 タナトスの額からはうっすらと汗が滲み出す。
 その様をじっと身動ぎすることなく、覗き見ていたヒュプノスも、タナトス同様に滲み出た汗が頬を伝い、花の花弁にぽつりと落ちた。
 死の神がきゅっと固く口を結び、瞳を閉じると、何度か顎をなぞらえていた切っ先が真中で止まる。


 ―――刹那か、永遠か。


 吹き起こる恐慌の最中、思考さえも停滞させて闇の帝王の決断を待った。
「……ヒュプノスよ。そなたは愚かな片割れをなぜに止めなんだか?」
 すいっと剣が離れていき、全身から汗が噴出すのをタナトスが知覚する。
 矛先が、いや、剣先が兄である眠りの神へと狙いが定められる。
「ハーデス様。私の思いはタナトスと同じなれば。あの者は冥王さまに厄災しか齎しま…せ……あ…ああぁぁ―――!!」
 ヒュプノスの冥衣にハーデスの剣が鈍い光を放ちながら、ズズと飲み込まれていく。
「……第一層に到達」
 感情のない冷ややかな冥王の声がタナトスに届いた。
「お待ちを!どうか御慈悲を!!」
 冥王の足に縋りつくようにタナトスは懇願した。
「……第二層に到達。どうだ?ヒュプノスよ、この剣の味は?余の冥界の掟とペルセフォネの正義が一体となった剣。過去において、おまえたちが余に献上したものよの?」
「ひっ…あ……あっああ」
 更に奥へと進む切先にヒュプノスは全身を戦慄かせて耐えていた。
「第三層……さて、もうすぐおまえの『核』に触れるが?おまえの邪悪がペルセフォネの正義にどれだけ抵抗できるか。フフフ。楽しみだ」
 残酷な微笑が冥王の面に張り付く。
「ハーデス様、何卒、何卒!!」
 ちらりと足に縋りつくタナトスをハーデスは見遣った。その暗澹たる狂気を孕んだ瞳にぞくりと背筋に戦慄が走る。
「――余は楽しんでおるのに、おまえは邪魔をするのか?」
 玲瓏なる声が殊更にゆっくりと耳に届いた。
 ハーデスが慈悲なき神であることを知りつつも、恐怖に萎縮する魂を叱咤しながら、震える声で言い募る。
「……ヒュプノスが消えてしまう!片翼の受ける痛み、苦しみをすべてこのタナトスが感じていると知りながら、なおも片翼をもぎ取るのか!?」
 ヒュプノスが受ける苦痛は合わせ鏡のような双子であるタナトス自身への苦痛でもあった。
「おまえたちは―――余の片翼をもぎ取ったではないか」
 どこか茫洋とした表情で舞う花びらを目で追いながら、冥王は呟いた。
「一度ならず、二度までも愚挙に出るとは。愛想が尽きるというものよ」
 見事なまでの美しい微笑を浮かべながら、冥王は剣を持つ手に力を込めた。



作品名:比翼連理 作家名:千珠