比翼連理
2. 遠イ記憶
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黄金の時代、神は確かに存在した。
そして、今もなお、人々の知ることもなく存在しているのは事実。アテナ自身、転生という形で今、この世界に存在している。他の神々も形は違えども、存在している。
ただ、多くの人間は知らないだけである。ごく一部、ほんの一握りの者たちだけが、その存在を知るのみ。そのことが幸福か不幸かといえば恐らくは後者なのかもしれない。
―――初めての邂逅はいつだったか?
ゆるりとしたまどろみの中、夢のような感覚に身を委ねながら、アテナがかつて神そのものとして存在した『アテナ』の記憶に思いを馳せる。
幾度かの転生を経て、その記憶はとても危うく、朧げであったが、かの美しき花園に隠されていた神の存在は今も確かに記憶の片隅に在った。天界の覇者ゼウスと大地の女神デメテルの血を受け継ぎし者。
地界の覇権の象徴である『正義の剣』を持つという噂を耳にして、オリンポス十二神の一柱といえども、無断で入ることの許されない禁断の花園へと足を伸ばした。
(そう、アテナは―――『私』は花園に向かった)
その当時は名も知らず、会ったこともない存在。自分と同じくする父神の力に守られた花園は目を見張るばかりの百花が咲き乱れる美しい花園、ニュサ。
その花園を維持することのできるのは大神ゼウスと大地の女神の地を受け継ぐ者のみだと言う。そしてその者は、地上の覇権の象徴である『正義の剣』を守護しているのだと聞き及んだ。
――否、違う。
地上の覇権を継ぐのは花園の守り手である『ニュサの守護神』だと、まことしやかに囁かれていた。彼の者の存在を知ったとき、自らの中で芽生えた感情、それは『危惧』と『嫉妬』。
(嫉妬?なぜ嫉妬など……)
百花繚乱の美しさに心奪われながらも、心の奥底にある昏い感情を抱きながら、そこに在る者の存在を探した。父神の、母神の愛を一身に受け、噂では冷酷なる冥界の覇者ハーデスの心をも動かしたという、地上の覇者となるべき者の存在は我が身の存在を危うくする。
(私は……“アテナ”は地上の覇者になりたかった?)
隙在らば、―――滅する。
そんな昏い想いを胸に秘めて降り立ったのだ。
ゆっくりと結界が張り巡らされた花園奥深くへと、臆することなく歩みを進め、緑に囲まれた神殿に入る。
中庭には見事な噴水が規則正しく弧を描いていた。