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比翼連理

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「――――このような辺境の地に客人とは珍しきことだ……それも貴女のような尊い神が、この地に訪れるとは」
 凛とした声が静かに響き、弧を描きながら煌めく泉を通して、その姿を認めた。

(あ……あれは!?)

 降り注ぐ天の光を受け、黄金の稲穂のように光り輝く滑らかな金の髪を優雅に舞わせる。天空の蒼を瞳に、うっすらと微笑を口元に浮かべながら、春を彩る花々に無防備に身を委ねていた美しき神は静かに立ち上がった。
「貴方が、ニュサの守護者……?」

(……!?そんな…バカな…あの姿は)

 この神が。
 地上の覇権を委ねたがる父神の気持ちが理解できなくもなかった。
 そして、惜しみない愛情を与える大地の女神の気持ちも理解できなくもなかった。ただ、一点、許しがたい真実を除いては。
「“娘”だと……女神だと聞き及んでいました。でも、違う。貴方は……だからですか?貴方がここに隠されているのは」
 男でもなく、女でもない……いや、少年のような、少女のような……というべきなのか?
 くすりと艶やかな微笑を零し、ほんの少し目を細めたニュサの守護者。
「……私が存在するために、“性”はゼウスに奉げた。自らの地位を奪う恐れのある者を許すほど、あの神は甘くはないことを、貴女ご自身、よくご存知のはずだ。それに女神であればあったで、余計なことに巻き込まれるのは判りきったこと。ならば、いっそのこと捨て去ればよいだけ。それで父神も母神も平穏無事に過ごせるというわけだ。父神は私の“性”と引き換えに、全てを与え、全てを奪う力を与えた。故に私はこの花園に在る」
 さらりと応えてみせた美しき神の恐ろしさを今も記憶している。
 生命の根源をも操ることができるであろう強大な力を内に秘め、慈愛と冷酷を共に併せ持っている。
 もしも、この神が地上の覇権を手にしたときには如何なる事態が引き起こるのか?
 地上に満ちるのは“混沌”。
 許されざる真実が招く災厄。
 地上は愛と正義で満たさなければならない。
「私は……貴方を……貴方の存在を認めない!」

(いや!もうやめて!これ以上見たくない!!)

「アテナ、私が憎いですか?……私に与えられた力が」
 黄金の風がアテナの周囲を包み込む。


 そして。


 初めて、自ら争いを仕掛けた。

(やっと、理解った。ペルセフォネは私の傍で…ずっと近くに存在していたのだという事実を……)



作品名:比翼連理 作家名:千珠