比翼連理
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―――赤い月が不気味に聖域の闇に満ちた頃。
黄道十二星座の火時計の炎が灯された。
ゆらゆらと揺れる炎の揺らめきは黄金聖闘士たちの心を映し出すかのようである。
静かに、熱く燃える闘志。
再び、神との戦いの火蓋が切って落とされようとしている。
白羊宮から、遠い場所で禍々しい気配が一つ、二つ感じたかと思うと、押し寄せる津波のごとく、その数は増していった。黄金十二宮、特に白羊宮と処女宮に強固な結界が張られたのを感じる。
「まがりなりにも、教皇ということですか」
すっと視線を教皇宮へと視線を移したのは、白羊宮を守護するムウ。
「ああ、どうやらサガが結界を張ったようだな」
同じく、白羊宮の守護を務めることになったカミュがムウの呟きを聞き、律儀に答えると、ムウ同様、教皇宮に視線を定めた。
教皇宮の中で聖域の要である十二宮の結界を強固にするべく、瞑想しているであろうサガの姿を思い描く。
この結界が破られたとき、恐らくサガ自身も無事では済むまい。
――神との戦いだ
サガはそう断言した。
敵は闇の因子であるとも。
教皇としてスターヒルに登り、星見から得た結果なのか、それともアテナから何らかの情報を得たのか?
「ああ、そういえば冥王の捨て台詞……確か、ティターンの一族が冥府の檻から逃れたと言っていましたね」
「……」
ムウの呟きはどうやら、カミュにではなく、ムウ自身に語られたことなのだと知って、カミュは質問することなく黙ってムウの独白を聞いていた。
サガの本質は正義だと断言した男は今、この聖域にいない。本当に正義なのか、甚だ疑わしいとしか思えぬムウにとって、このサガの采配は吉と出るか、凶と出るか、一種の博打のような気がしてならない。
今回の戦いは聖域にどのような禍根を残すだろうか。守護すべきアテナもいまだ心を閉ざし、沙羅双樹の園から姿を現そうとしない。幾度となく心話での接触を試みたが、一切の返答がない。
ただ、処女宮を支配するのは懺悔に近いアテナの小宇宙だけ。聖域に降る災いは果たして外の因子だけからなのか?内から崩壊するということはないのだろうかとムウは危惧した。
「このような私の惑いなど、貴方は鼻で笑うのでしょうね、きっと」
シャカ、貴方ならどう行動しますか?
サガを、アテナを信用して、ただ貴方は自分の成すべきことを、ただ真直ぐに見据え、迷うことなく敵と対峙するのでしょうか?
――君は君の思うままにあれ――
風に乗ってシャカの言葉が聞こえた気がしたムウは目を細め柔らかく笑んだ。
「そうですね。私らしく、敵を見事に打ち破ってみましょうか」
十二宮を目指して登ってくる敵を迎えるべく、ムウは黄金の小宇宙を高めた。何か迷いが吹っ切れた様子の同僚を見ながら、カミュも黄金の小宇宙を燃焼しつつ、敵を迎え撃つべく意識を集中させた。