比翼連理
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輝く二筋の光矢が赤く染まる闇夜に放たれた。螺旋を描きながら、やがて一つの光刃と化す。聖域への、人間への憎しみの炎が宿るその黒き闇の瞳が大きく見開かれた。
断末魔の声を上げているのは神なのだろうか?
それとも神に背いた人間なのだろうか?
閃光が朱色に染まる闇の空を焼き、凄まじい爆風が巻き起こった。激しい衝撃が二人を襲った瞬間――――。
カミュは美しく舞い散る沙羅双樹の花を見た気がした。
「くっ!―――しまっ……!?」
凄まじい爆風は最強の硬度を誇る黄金聖衣の生命さえも、奪いかねないほどの衝撃であった。なおかつ次元の狭間から弾き飛ばされたカミュは大地に強く叩きつけられたため、すぐには臨戦態勢を取れなかったのである。
そのカミュの前に、巨大な影が立ちはだかった。今まさにその鉄槌が振り下ろされようとしたとき、黄金の小宇宙の障壁が現れた。
「ムウっ!?」
牡羊座の黄金聖衣だけではなく、ムウ自身の身もひどく傷を負っているのが見て取れた。一瞬にしてムウの足下には血溜りができていく。
障壁によってカミュを守られてはいたが、その力の使い手であるムウ自身に、あの神は最後の力をもってして反撃をしてきたのであろう。つんざくような咆哮が轟き、再び振り下ろされた鉄槌にムウの作り出した障壁が軋みを上げた。
「ぐっ!」
ムウは片膝を着き、滴る血を大地に捧げながらも、その大いなる神の力に拮抗するかのような小宇宙を高めながら叫んだ。
「カミュ、何をしているのです!?早く、行きなさい!9時の方向にミロたちがいますから!」
ムウはそう言った後、ぐっと歯を食いしばり、繰り出される神の力から与えられる容赦のない痛みに耐えていた。
そのムウの姿に胸を痛めながらも、足手まといにしかならぬ己は潔く退散すべきだとカミュは判断した。
「―――わかった!すまない……ムウ」
一瞬立ちくらみを覚えながらも、カミュは体中に走る痛みに耐えながら大きく跳躍し、後ろを振り返る。ムウは一気に小宇宙を燃焼させ、彼の目の前に立ちはだかっていた巨影を見事打ち倒した。
ズゥゥンと地響きを伴いながら倒れていく、闇の因子の見開かれた瞳に静かな笑みをムウが与える。
血風が巻き起こる中、ムウはゆっくりと立ち上がり、力強く輝く黄金の光をその身に纏うと再び血に染まる戦場へと視線を向け、ゆっくりと歩き出していった。
その姿はまるであの偉大な教皇が、聖域の危機のために再び甦ったのかと錯覚させるほど、秘めたる力を解放したアリエスのムウは神々しく、猛々しさと雄々しさに満ち溢れていたのだった。