比翼連理
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薙ぎ倒しても、薙ぎ倒しても押し寄せる、津波のごとくの敵の数を呆れたように見つめながらボヤく声があった。
「酷いものだな。さしもの俺でも、あそこまではしねぇ」
「確かに醜い限りだな」
個別に感想を述べながら、じりじりと迫る、闇の因子と呼ぶに相応しき禍々しい気配を放つものたちを射るように見つめる黄金の影。
「ひよっこどもも、踏ん張ってはいるが、限界だな?どうするアフロ?」
焦れたように眉間にシワを寄せる蟹座の黄金聖闘士にアフロディーテは血生臭い戦場には不向きな、いやある意味、最も相応しいともいえる凄烈な美しい微笑みを浮かべ、答える。
「我らが加勢したところで、どうなるとも思えないが。相当数の者が退治に当たっているし、それでも隙をついて十二宮を登ってくる者がいないとも限らない―――このように、なっ!」
シュッと投げつけた薔薇に射抜かれた化け物が断末魔の叫びを上げる。
「お見事。それに教皇さまのいいつけに逆らうと後が恐いか。金牛宮に回された奴らも、とうとうシビレを切らして白羊宮に降りて行っちまったようだし。俺らはのんびりとここで、待つとするか」
デスマスクは男臭く口端を上げて笑うと、どっかりと巨蟹宮の前の階段に座り込んだ。
「おやおや、相変わらず、青いねぇ。ミロは」
手を額に翳すようにしてどこか微笑ましいといった雰囲気で白羊宮を遠く見る。
「しかし、カノンではなく、サガが双児宮を守護していれば、ここまで登ってくるヤツもほとんどいないだろうに」
ホウッと薔薇の吐息を吐くアフロディーテにデスマスクは肩を竦める。
「サガでも困難なことだろうて。本来ならば一対一、己の拳で戦うことを良しとするアテナの聖闘士だぞ?あれだけの数を一気に捌くとなりゃ、話は別だ。それにあの巨人たちには神の力を感じる。厄介な限りだ。その神の力を削ぐべく、サガは教皇宮で小宇宙を限界まで高めている。十二宮の結界を張るだけでも大技だろうに。そんなことができる奴は神のごときサガか……」
一瞬の間を置いたその時、背後から声が降ってきた。
「―――最も神に近い男、シャカ……しかいないか?」
言い澱んだデスマスクの代わりに、顔をマスクで覆う女聖闘士が答えた。
「ここにいない者に期待しても仕方ないだろ?黄金さん。それともアンタたちじゃ、まったくの役立たずかい?」
「たしか……魔鈴とかいったな。煩い女だな」
煩そうに顰め顔を向け、あっちへ行けとでもいう風にデスマスクが手をヒラヒラさせる。
「正直者と言っとくれ。悪いが、あたしゃココを守るように言われてんだよ。不本意ながら、ね。あんたたちもこんなトコで見物してないで、配置に着いとくれよ」
言うことだけ言って満足したように、再びスタスタと中に入っていく女聖闘士の後姿を不愉快そうな表情で見るデスマスクにアフロディーテは笑った。
「おまえより、よっぽど巨蟹宮の主に相応しいかもな。いっそのこと、その聖衣をくれてやれば?」
優雅な微笑を浮かべながらヒラリと背中を向けるアフロディーテは足取りも軽やかに宮へと進む。
「冗談きついな、おまえ」
デスマスクは笑みを無理やり浮かべたためか、口元が若干ピクピクとひきつっていることを自覚しながら、巨蟹宮の中に戻る同僚の後をついていった。