比翼連理
3. 運命ノ輪
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「サガ、どう思う?最近のアテナの塞ぎ込みの原因は何だと、お前は読む?」
カノンは青空の下で大きく伸びをしながら、隣で本を読みふける兄に問いかけた。チラとサガは横目でカノンを見ると、しおりを挟み、パタンと本を閉じた。
十二宮を見渡すことのできる丘で、二人は静かな一時を過ごしていた。
「我々には考えも及ばぬことかもしれんが。ただ、あれほどシャカの復活の時には喜びに満ちていた小宇宙が、今は不安の翳りがあることに、気づかない連中はいないだろうな。聖戦は終わった。私はそう思っていたが。違うのかもしれん」
「やはり、そう思うか、おまえも。きっと他の連中だってそう思っているのだろうな。だからムウは急ぎ黄金聖衣の修復にかかっているのだろう。ただ…..エリシオンで散ってしまったサジタリウスの聖衣や他の4体の聖衣だけは結局アテナの大いなる力をもってしても、戻ってはこなかったようだが……」
カノンはごろりと大地に横たわる。降り注ぐ太陽の光を気持ちよさそうに浴びた。
「何故なのだろうな。5体の聖衣だけは……未だエリシオンの地に縛られているのだろうか?」
空を見上げながらカノンは呟いた。サガ自身カノンと同じく疑問に感じていたことではあった。
「エリシオン…ね」
サガは直接目にすることはなかった彼の地。そこは美しい花々が咲き乱れる園と聞く。神々が住む場所には相応しかったと青銅聖闘士たちが語っていたことを思い出す。
美しい花園、か。
サガが知る美しい花園といえば『あの』花園しか頭に浮かんでこない。
「そういえば、シャカは妙なことを言っていたっけな」
唐突にカノンが口にした者の名に内心驚きながらもサガは無表情に返す。
「妙なこと、とは?」
「ああ。あいつらの聖衣は戻ってきてないってことを伝えたときにさ、確かに言ってたな『そんなはずはない。聖衣は戻ってくるはずだ』ってな。まぁ……シャカの言うことだし、な。あいつは昔っから、ああいうやつだったのか?黙ってりゃ、なかなかの美人なのにな」
『シャカの言うことだし』とはどういう意味なのだ、とサガは思いつつも、聞かずにおいた。