比翼連理
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「おいっ!一体どうなってるんだっ!」
雑兵や聖闘士たちの怒号が飛び交う中、大声をあげながら処女宮へと飛び込んできた黄金聖闘士の姿を認めて、瞬が叫ぶ。
「アイオリアっ!沙織さんがーーっ!」
既に涙で瞳を潤しつつも、気丈にアイオリアを導きながら、沙羅双樹の園の扉へと向かう。
「強力な結界が張られてて……中に入れないんだ。みんな必死になって扉を壊そうとしてるんだけど」
「アイオリアか!」
シュラが声を上げる。何度か突破を試みたのだろう、彼の腕は血にまみれていた。
「すまん。まさか、内から崩されるとは……」
肩を落とすシュラに慰めの言葉も浮かばず、ぎりと奥歯を噛み締める。
「アテナの小宇宙が……アテナっ!沙織さんっ!!」
「アテナーーっ!」
絶望的な表情で扉を叩き続ける青銅の少年たちの姿に胸を痛める。
「何とかならないのか!?」
この地上で嘆きの壁となるのか?
この沙羅双樹の園へと続く扉が。
ぎゅうと拳を握り、射すようにアイオリアは扉を睨む。
「アテナの結界だけではないのだ。アイオリア……サガの結界も張られている。それに、ここはシャカの聖域。シャカの残留思念ともいえる小宇宙が、強力な結界となって、俺たちでは立ち入ることができないんだ。そして、それを凌ぐ圧倒的な小宇宙を持つ者が…中に現れて……くそっ!」
無念とばかりに床に拳を叩きつける同僚の肩に手を置こうとした瞬間、爆発的な小宇宙が扉の内側から強く感じた。
蒼白く輝く、透明な穢れなき力強い小宇宙。
「!?」
「一体誰が……これは、サガ!?」
「そんな―――無茶だ!彼は聖衣を纏っていない!」
「サガーーっっ!」
臨界まで高められた小宇宙。それは、かつてここで命を散らせた者と同じくする決死の覚悟と記憶が重なった。
次の瞬間、サガの小宇宙を遥かに凌駕する力が沙羅双樹の園の扉を、処女宮を突き抜け聖域一帯に広がる。
それは紅蓮の炎。
紅く燃える灼熱の炎が、聖域を、すべてを焼き尽くし、灰と化すかのような勢いであった。共鳴するように化け物たちの閧の声が遠く離れたこの宮でも轟いた。
「くっ!!」
びりびりと聖衣を通して伝わる衝撃の強さにまっすぐ立っておられず、アイオリアやシュラたちは膝を着く。中にはその瞬間、衝撃により吹き飛ばされた者もいた。
なんという力。
これが、神の力なのか?
紅蓮の炎がアテナの聖域を焼き尽くす―――
こんなおそろしい力を。
聖衣さえも纏っていないサガがまともに受ければ。
絶望的な予感に誰しも心を曇らせた。
「サ……ガっ!!!」
悲痛な叫び声は、強固な嘆きの壁と化した沙羅双樹の園の扉に飲み込まれていった。