比翼連理
16. 剣戟ノ果テ
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「フ……よもや、貴様が人の子の盾になろうとは。長生きはしてみるものだな」
紅い炎が、渦巻く闇に飲み込まれていく態を、強い憎しみに輝く黒曜石の瞳でみつめる。黒き闇の翼が地上に舞い降りるとは。よほど此度のことを危惧してのことか、それとも―――。
湧き上がる憎悪を宥めながら、穏やかな微笑みをプロメテウスは浮かべて見せた。
冥王ハーデス。
地下世界のゼウス。
「―――たまたま余が降り立ったこの場所に、人の子がいたまでのこと。よもや、ここで会えるとは思わなかったぞ。プロメテウスよ」
足元で倒れている人間に目を向ける。
―――致命的な傷を負った男は、アテナの聖闘士の一人。
いつぞやは刺客として仮初の命を与えた、神の化身とまで称された男のようだ。静かな慈悲深い瞳で、冥王は青銀の髪を持つ傷だらけの男の背中に剣を軽く宛がう。
剣に宿るペルセフォネの正義と人間のみに効く再生の力が、この男の傷を癒すだろう。このまま捨て置けば、恐らくアテナの聖闘士でもある彼が悲しむに違いない。そう思い、彼のためだけに、この男を癒す。
「―――冥府の王よ。ここは貴様の住む世界ではないはずだが。己が世界を守らなくて良いのか?私が放った刺客たちはおまえの世界の住民たちを滅ぼすぞ?」
ざわりと冷たい風がプロメテウスの緩やかに波打つ黒髪を撫でながら、彼の周囲に渦巻く。プロメテウスが右手を翳す。輝く光の源をもとに原子が組成されていく。やがて、長身のプロメテウスの身の丈ほどある、白金に輝く杖が形成された。
「―――笑止!余の軍は四界きっての統率力と力を持つ。余、自ら下賤な者たちを相手せずとも、あれらがおまえの放った者どもを蹴散らせておるわ!」
すいと剣を青銀の髪を持つ男から離すと、カチリと切っ先をプロメテウスへと向ける。きらりと諸刃が鈍い光を放ったと同時に漆黒の翼を広げ、跳躍する。
「滅びよ!プロメテウス!」
「ハーデスっ!!」