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比翼連理

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 紅蓮の炎が壁となり、灼熱の太陽となり、冥王に向かって放たれた。冥王は剣を大きく打ち振るい、発破のごとく炎の壁を裂き、プロメテウスへと振り下ろした。
 キンッと高い金属音を伴い、白杖で冥王の剣を受け止めたプロメテウスは、そのままティターンの強い力でハーデスを薙ぎ払う。
「ぐぅっ!!」
「……我が積年の恨みを受けるがいいっ!」
 紅蓮の炎が繰り出される。姿勢を崩しながらも、かろうじて結界を張り、灼熱の炎から身を守る。弾かれた炎は大地を貫き、焦がした。
 消えることのない炎が、花々を焼き尽くしていく。舞い上がる火の粉が赤く血の色に花園を染め上げていった。
「くっ…….」
 ゆらゆらと命を宿した炎がアテナやあの聖闘士に迫っていた。ハーデスが気を取られたその一瞬の隙を見逃すことなく、プロメテウスの杖が結界を貫く。
 生じた激しい衝撃が真空の風となって、ハーデスとプロメテウスを襲った。幾筋もの切創にかまうことなく、ニ神はぶつかり合い、互いの武器を交えた。
「―――人の子の身が気になる?女神の身を案じている?冥府の王が?……くくっ。面白い。まこと、愉快だっ!」
 キンと高い金属音とともに蒼白い火花が散る。身体ごとぶつかり、衝撃を殺しながら、間近に睨み合った。
「―――人を創り、人の為に尽くした貴様が……自ら人間を滅ぼそうとするとはなっ!」
 鈍い金属音を響かせ、闇を封じ込めた湖底の瞳と復讐の炎に燃える漆黒の瞳がぶつかる。
「幾千の年月を数え、この日をどれだけ待ちわびたことかっ!」
 勢いをつけ、後方に飛び退いたプロメテウスは、振り下ろされた剣を左腕に受けながら、鋭く尖った杖の先でハーデスの腹部を貫いた。

「お……のれ……ぐっ」
「この…剣は……!?」
 双方が痛みに耐えながら互いに武器を引き抜くと鮮やかな血が噴出した。
「これが名高き滅びの剣……冥界の掟」
 プロメテウスは滴り落ちる血を止めようと試みるが、傷口は塞がるどころか、徐々に広がっていく。
「―――数多の神の血を吸い、その力を糧とする剣……か」
 ふっと皮肉めいた笑みを浮かべ、プロメテウスが一歩下がる。ハーデスは貫く腹部の痛みに耐えながら膝を屈することなく、再び剣を構えると前に歩み出る。
「……その通り。数多の神の血を吸い、そして先刻も新たな神の血を啜ったこの剣。貴様に降る眠りはヒュプノスの力」
 後退するプロメテウスは降る眠りに抗おうとするように頭を一つ振ると、杖を翳し小さく呟きを発した。
「光よ―――我を護り給え」
 その呟きに応じたかのように容赦なく迸る光がハーデスの瞳を灼く。
「くっ!」
 そして握る剣が共鳴するように震えると、今度は迸る光に吸い寄せられるかのように冥王の手元から離れようとした。
 ぐっと強く剣を握り、眩む瞳を庇うようにして腕を翳し、ハーデスは己の力を放出する。
 暗黒渦巻く障壁により、かろうじて身を守ると、雷鳴のごとくプロメテウスの咆哮が響いた。
「我が愛しき者たちよ!光は我が手にあり!退散せよっ!―――ハーデス!貴様との決着は次の機会だ。それまで……ゆうるりと痛みに苛まれるがいい!」
「―――おのれ、逃すかっ!」
 繰り出そうとする剣はその意思に逆らうようにして、ハーデスを大地に縫い付けた。
「なっ!?」
 プロメテウスはそんなハーデスを嘲笑いながら、歪む空間へと姿を消していく。苦虫を潰したようにハーデスは美眉を寄せ、奥歯を噛み締めた。

 ―――ペルセプォネよ……どこまでも、貴方は私を拒むのか?
 ―――そして、あの男を選ぶのか?

 赤い月を見上げる。
 焼けた花園に降る赤い光は凄惨な輝きを増すのみ。聖域に蠢いていたプロメテウスの意思たちの気配は主とともに鮮やかに消え去った。
 意識を失ったまま倒れている女神へと視線を移すと、ハーデスは剣を鞘に収め、静かに膝をついた。
 今ならばなんの手間もなく、この女神を滅することができるだろう。彼女が喪失した力は大きく、奇蹟を起こす力さえももはや無きに等しいといえる。
 だが、それはほんのひと時であろう。
 本来持ち得るこの女神の力は強大で無慈悲だ。
 
 この女神を恐れたのか―――ゼウスは。
 そして地上の覇権を持つ破壊者の力を。
 己の子である二神を恐れたのか?
 それで拮抗するような力を与えて。
 カオスを厭うこの女神に、カオスともいえる存在の光を与えたのか?
 そうして秩序を重んじる女神は自ら秩序を乱す女神となったのか?

 白く血の気の引いたまだ幼さを残す美しい貌をそっと撫でると、小さく身じろいだ。そろりとアテナをハーデスは抱き上げた。
 神の力を宿す人間の身体は儚いほど小さく感じた。焼けた草花の上を滑るように進むと、そのあとを追うように腹部から流れ出る血がぽたぽたと大地に朱点をつけていく。
「ふん……忌々しい。塞がらぬ、か」
 鈍く確かな痛みが少しずつ、だが確実に広がっていくのをハーデスは感じていた。
 ズズゥンと重い扉が開かれる音が響く。
 目を細め、音が発した場所に視線を流すと、開け放たれた扉から聖闘士たちが雪崩れ込んでくるのが見えた。



作品名:比翼連理 作家名:千珠