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比翼連理

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-3-

「不屈の精神、か。おまえはまるであの男のようだ」
 まっすぐに前を見据える力強いムウの瞳に冥王は答えた。
「よいであろう。おまえをあの場所へ導こう。だが、気をつけるが良い。プロメテウスは破壊の力を得た。あれはすべてを無に帰する力。アテナはあの力を使うことができなかったが、あの男は使う術を心得ている。やつらの中にいる杖を持つ者には用心するがよい」
「わかりました」
「それから……これを持つがよい」
 冥王の掌がぽうと光り輝くと光の粒子が凝縮し、やがて何かを形成した。それをきゅっと一度、握り締めハーデスは何事か呟くとムウの前に手を差し出した。
 差し出された冥王の手の下にムウは手を伸ばす。するりと冥王の掌から零れ落ちたのは光輝く金色のペンダント。
 受け取ったムウは怪訝に首を傾げた。
「シャカを見つけることができたなら、我が名を念じよ。おまえたちをこの場に誘導する。プロメテウスがおまえたちの行く手を阻むならば、我が名を唱えよ。さすれば余はその場に馳せ参じようぞ」
「何故、私にこれを?」
 腑に落ちないといったようにムウは警戒する。
「気まぐれ―――などという詭弁を弄してもおまえには通用しまいな。既に気付いているのであろう。余とシャカの中に眠る魂との経緯を」
「あなたが……アテナから力を奪うためにシャカを地上から連れ去ったのではないということはわかりました。この美しい園に咲く花々たちがあなたの悲しい想い出を語ってくれましたから……おかげで、瞬の言っていた意味がようやくわかりましたよ」
 ムウはぎゅっとそのペンダントを一度握ると首にかけ、見えないように聖衣の中へと仕舞い込んだ。

『……ハーデスだってずっと、ずっと探していたんだ。失くしてしまった光を彷徨い求めてたんだ。大切な、何よりも大切な愛しい人を!永遠にも等しいほどの時間の流れの中で、どんなに苦しみ、悲しみもがいていたか、貴方はわかる!?』
『貴女だってわかっているんでしょう!?わかってしまったんでしょう!?ハーデスが欲していたのは……この世界ではなくて、ペルセフォネというハーデスにとって……何よりも、誰よりも大切な人を欲していただけなんだということを』

 憑代となった瞬はハーデスの心を垣間見たのだろうか。瞬の叫びはまるで、ハーデス自身の叫びのようにムウは今なら思えた。
 シャカの中に眠るという『ペルセフォネ』という神の魂の存在。心底からそれを信じているわけではないムウではあるが、シャカの稀有なる力は神の領域にも匹敵し、それゆえに昔から『最も神に近い男』と綽名されてきたことや、乙女座の星宿に相応しい、その類まれなる容姿は性別を超越した美。
 しかし、シャカは神ではない。彼は間違いなく人間である。不確かな魂の存在に翻弄されているのはシャカなのか、この冥王なのか。

「あと一つだけ、教えて欲しいことがあります。なぜ、プロメテウスという神はシャカを連れ去ったのでしょうか。アテナから力を奪って何を為そうとしているのですか」
「あやつを突き動かしているのは―――余への憎しみの心とペルセフォネへの思慕。完全なる魂の復活を果たそうとしているのではないかと余は考えている」
「完全なる魂の復活?」
「つまり……シャカの存在を消し去るということだ。あの男はシャカの存在を認めないだろう。純粋なるペルセフォネの魂の存在だけを欲しているあの男にとって、不純物となるシャカという人間の魂は邪魔なだけだろうからな。そして、あやつが望むペルセフォネとともに地上に楽園でも作るか、己とペルセフォネを貶めた天界、冥界を潰したいとでも考えているのかも知れぬな。ペルセフォネもきっと反することなくあやつに従うであろう」
 ムウは言葉を失い、冥王の言ったことを頭の中で反芻していた。
「ペルセフォネという神はプロメテウスと一体どういう間柄なのですか?」
 ちろりとムウを見た冥王は感情を押し隠した表情で、淡々と答えた。
「ステュクスの河に不滅の愛を誓った者たち」
「―――愛し合う者たちを貴方は裂いたのですか。それでは怨まれても当然でしょうね」
「かもしれぬ。そして、そのことに一枚噛んでいるアテナもまた同様にな」
 ムウの皮肉に冥王は口端を少し上げて笑みを浮かべると、傷口から滲み出る血を掌で受け止め、黄金に鈍く輝く聖衣に分け与えた。
 ムウは小さく驚きの声をあげた。
 纏っていた聖衣が黄金の輝きから、深い闇色に輝きに変化していく態をただ呆然と眺めた。
「アテナの力は喪失している。おまえを守る聖衣もただの防具でしかない。それではあれらには立ち向かうことが叶わぬことをおまえも厭というほどわかっているはず。余が変わりに力を貸し与えたまで。ただし、あくまでも仮初だ。行くがいい、アテナの聖闘士よ。タナトスが先か、おまえが先か。楽しみにしているぞ」
 急激に冥王の小宇宙が高まり、ムウを包みこむと次の瞬間、衝撃がムウの全身を貫いた。




作品名:比翼連理 作家名:千珠