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比翼連理

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-2-

 シャカ。あの聖戦の折のことを思うと未だに心が痛む。アテナのためとはいえ、己が意志で彼を葬ったのだ。禁忌の力をもってして―――。
 あのときのシャカの鮮やかな笑みは忘れられない。
 どうして、あんな風に壮絶な微笑みを浮かべ、散ることを恐れず、甘んじて技を受けることができたのか。
 『全てを許す』
 あのとき、彼が我らにそう言ったように聞こえた。
 流れる涙は留まることを知らず、慟哭した。
 沙羅双樹の花が美しく散っていく瞬間までもが、未だに目に焼きついて離れない。

 どうしてなのだろう?
 幼き彼を教え導いたのに。
 どうして?

 愛しみ、慈しみ育てた我が子のような彼を手にかけることができたのだろうかと思う。血塗られた呪いの宿命に激しく怒り、また逆らうことができずにいた自分を激しく責めることしか許されなかった己の運命。

「サガ、すまん。つらいことを思い出させたか?」
 苦渋の表情に満ちたサガを労わるように接するカノンに少し口端に笑みを浮かべる。
「いや、気に病むなカノン。これは消えることのない私の罪。私はあのとき、一生この罪を背負っていくことをよしとしたのだから。シャカもきっとそれを理解しているから、あえて何も言わないのだろうし、私もあいつに謝罪の言葉は述べない」
「そうか。そういうのもアリかもな。でも、本当にあいつ壮絶なまでに綺麗だな?つーか、過剰演出しすぎなアテナも悪いか。あれは……騙される」
 にやりと意地の悪い笑みを浮かべるカノンに苦笑する。確かに他の聖闘士には類の見ないほどの美しい復活劇。
 アテナの小宇宙とともに金色の光に包まれたシャカは神々しいばかりだった。
 風をはらみ舞う金色の長い髪に象牙の肌、そっと開かれた天空の蒼を閉じ込めた双眸。「神に近い男」というよりは、神そのものと錯覚してしまうほどの美しさだった。
 聖戦後、より一層その輝きは増したといったほうがいい。そのためなのだろうか、近付き難いといいつつ、処女宮には誰かしら人が訪ねている。
 このカノンでさえも。
「おまえも恋敵が増えて大変だな?ムウ一人でもやっかいなのに」
「何のことだ、一体。馬鹿なことばかり考えているな?相変わらず、お前は!」
 ぺしりとカノンの額を叩いた。
「ってーな。違うのか?お前、シャカが好きだろう?」
 さらりと言ってのけるカノンに少なからず驚きつつも、しかしシャカへの想いは単純なものではなく、もっと複雑であることから、容易に「YES」とは言えない。
 そんな簡単に片付くような感情などではない。
 もっと深くて、広い。けれどもその感情を表す言葉が見つからないし、自分が口にすることは憚られると思った。
 一度でも彼の生命の煌めきを奪った罪人であるから。
「違うさ。そんな薄っぺらな表現で片付く愛情じゃない。そうだな、強いていうならば『親心』みたいなもんさ」
「ふ〜ん、親心ねぇ?ま、別にいいけど。親ならちゃんとあいつを守ってやりなよ、今度こそ。命に代えても、な?」
 真面目な表情を浮かべるカノンにサガは黙って頷く。
「あいつはここに来たときから、いや……来る前からずっと『死』に囚われていたんじゃないのか。死を恐れてはいないあいつが……俺は恐い。俺は『死』の瞬間、恐怖を感じたよ、サガ。お前も感じなかったか?それなのにあいつは―――」
 カノンはふっと起き上がり、十二宮を見下ろし、一つ処に視点が定まる。
 柔らかな小宇宙に守られた宮、処女宮。
「―――冥界にたった一人で乗り込んでいけたのも、まるで…あっちがそれを待っていたんじゃねぇかって思うくらい。いつだって、あいつは『死』に近いと思ってしまう。死が、冥界が、あいつを呼んでいるんじゃないかってな」
 カノンの言葉には不思議なほど納得できた。
「それに、瞬の話をお前は聞いたか?ハーデスに精神を乗っ取られたときのことを」
「瞬?ああ……アンドロメダか。いや、彼とはまだ一度も話していないが?」
「ハーデスがシャカを見たとき、一瞬戸惑うような感じがしたんだとさ、誰かの名前を読んでいたようだったって」
「名前?」
「―――そう、名前です。『シャカ』じゃなくて、違う名前でした。ここ、いい場所ですね?すごい!十二宮が見下ろせる!」
 背後から声がしたためサガは驚き、振り返ると、そこにはにこやかに微笑む亜麻色の髪をした少年が立っていた。


作品名:比翼連理 作家名:千珠