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比翼連理

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-2-

 ―――悲しんだところで戻ってくるわけではない。
 嘆いたところで吹き消された命の灯火に再び灯がともることはない。

 ―――傲慢だった。

 自分の力だと思っていた。
 人間の生死を左右することのできる力を私は自分が創り出した力だと思っていた。

 ―――奪った力だったのだ。

 地上の覇者として与えられた力を奪い取ったのだ。
 神々の王の意志に逆らうことができないのを利用して。
 愛しい者の解放を願う無垢なる心を利用して。

 ―――欺いた。

 差し出された光には大いなる力が宿っていた。
 その中に含まれた慈愛の欠片。
 人間への愛、父神への母神への、そしてプロメテウスへの愛。
 それらは私の中で溶け込み、やがて「私」が形成された。
 私は人間を愛した。
 彼らを守るための奇蹟の力を身につけた。
 そして、もうひとつの力の存在に気付いた。

 ―――恐るべき力。

 なぜこのような力があの神に与えられていたのか。
 なんのために、あのような忌むべき力を持っていたのか。
 私にはその力を行使する基となる核がなかった。
 もし、持っていたとしても使い道を誤ればこの世界は滅ぶ。
 いや、この世界だけでは済まない。
「――――全てを無に帰する力」
 あの力が行使されることは阻まなければならない。たとえ……たとえ、彼の命を奪うことになっても。
 プロメテウスの手に堕ちてしまったら……ペルセフォネが目覚めてしまったら、もう取り返しがつかない。

 その前に。
 決断しなければ。

「シャカ。あなたの命を貰ってもいいですか」
 呟きとともに一滴の涙が頬を伝ったその時、厳しさを含んだ声がかけられた。
「―――アテナ、それはどういうことなのですか?」
「サガ……!?」
 振り返るとそこには苦悶の表情で沙織を見るサガが佇んでいた。沙織は首を微かに振りながら答えた。
「シャカに何の落ち度もありません。けれども本人の意思に関わらず、シャカは今や脅威の存在となってしまったのです。全てが取り返しのつかない事態になる前に……彼を…彼の命を奪わなければ―――」
「本当にそれしか手立てはないのでしょうか?ムウは一縷の望みを賭けて冥王とともに渡ったのでしょう。ムウの働きを待つことはできないのでしょうか?」
「ムウは私の手から離れました。彼が見えないのです。おそらく冥王の加護を受けたのだと思われます」
「ムウが……あなたの加護から離れたというのですか?」
 それはたとえシャカの、ひいてはアテナのためであったとしても、その行為自体は背信行為でしかない。かつて、サガ自身がとった行動でもある。
「私はつくづく自分が未熟なのだと思い知りました。あなたたちの忠誠に値する力量を備えていないのだと……ムウが冥王の力を借りるのは当然のことだと思います。でも、悔しい。悔しいのです。ムウにそうまでさせてしまった私が。私はあなたたちにとって一体なんなのでしょう?私の存在意義は?むざむざ貴方の命まで散らせてしまうところだった。もし、ハーデスがあの場に現わなければ、貴方も私も今、ここにはいなかったかもしれない。貴方を守ることも、聖域を守ることもできなかった……私は。教えて、サガ!私だって、シャカを救いたい!けれど…駄目なの……あの力が目覚めた時、世界は崩壊する。わたしは……アテナとして断固阻止しなければならない。それが私の務めだから―――!」
 切り裂かれんばかりの叫びにも似た悲痛な訴えをサガは黙って受け止めた。
 そっと戸惑うように沙織の細い身体を優しく抱くと、堰を切ったように佐織は咽び泣いた。
「どうか、アテナ、いえ、沙織。ご自分をお責めにならないで。けれどもあなたはアテナ。その尊き存在は何物にもかえがたいもの。ムウは奪われたあなたの力をきっと取り戻すでしょう。そして、シャカも。あなたもご存知でしょう。彼は聖闘士きっての実力者。きっとムウとともにこの聖域へ戻ってくるでしょう」
「サガ。シャカは戻ってこない」
 頑ななまでにそう言い切る沙織にサガは戸惑う。
「シャカは……打ち勝つことができないでしょう。あの神に」
「あの神……とは沙羅の園にいたあの男のことですか?」
「いいえ。違います」
 すっとサガから離れた沙織は遠くを見つめて呟く。
「シャカの内に存在する神。シャカという人は無我であろうとする。それが強みでもあり、弱みでもあるのです。それゆえにシャカは…どうか…シャカ。許して下さい、力なき私を。私ができること、それは―――」
 静かに目蓋を閉じた沙織の瞳から透明な滴がぽつりと落ちた。

 そして。

 ゆっくりと開かれたプルシアンブルーの瞳には強い意志の光が宿っていた。
 まるで、女神としてのアテナ本来の力が永い眠りから目覚めたような力強い輝きであった。




作品名:比翼連理 作家名:千珠