比翼連理
20. 獰猛ナ翼
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眩しい光に包まれた庭園。
木々の緑が優しい風に吹かれ喜びを囁きあっている。泉には美しく弧が描き出され、小さな小鳥たちがその水を啄む。
そして、その噴水のそばで泉をじっと眺めている者がいた。艶やかに流れる黒髪を煌びやかに輝く宝石で纏め上げた女性の姿があった。
『ここから先、我々は立ち入ることの許されぬ聖域でございますゆえ、お一人でお進み下さい』
そう言われて辿り着いた場所である。ゆっくりと噴水のそばに立つ女性の下へ近づいていく。
シャカの気配に気付いているのかいないのか、じっと俯き、泉を見つめたままの女性。その横顔はとても美しいものであったが、同時に悲哀に満ちていた。
声をかけるタイミングを計れず、一体何をそんなに真剣に見つめているのか、泉には何か映し出されているのだろうかと、そっと覗き込んだ。
「とうとう、此処に辿り着いてしまったのですね。ペルセフォネ」
憂いを含んだ寂しげな声がかけられる。周囲を見回しても己以外はいない。
(わたしのことなのか?)
そう思いながらも、呼ばれた名が違ったため返事を戸惑っていると、ほんの少し視線をシャカに移した女性はコクンと頷いた。
「あなたのことです。人間よ」
高貴な小宇宙の気配にすっとシャカは膝をついて頭を垂れる。畏まりながら、シャカは疑問をぶつけた。
「我が名はシャカ。アテナの聖闘士の一人です。なぜわたしをそのような名で御呼びあそばれるのか?」
「わたしはムネモシュネ。人間よ、おまえは己の内に存在する力に惑うているのではありませんか?わたしはおまえの内に存在する力に呼びかけているのです。その者の名はペルセフォネ。それがおまえの秘めたる力の正体」
「内に存在する者……ペルセフォネ?」
ドクンと大きく鼓動が打った。己の中で何かが膨らむ感じがした。苦しみはない、ただ感じる、力強い息吹。この正体がペルセフォネというものなのか?
なんと迸るような生命をもった力。
「さぁ、ペルセフォネ。目覚めなさい、もう眠りの時は終わりました。この悲しい運命の糸を断ち切ることができるのは、あなたしかいない。すべての争いを、すべての悲しみと憎しみを破壊するためにあなたは存在するのです。あなたの記憶は―――私にそう告げている」
それが神々の意思ということなのだろうか。シャカは黙したまま内に存在する力へ語りかける。
―――貴方は何を望むのか。
ムネモシュネもまた、静かにシャカを見守った。