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比翼連理

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「……誰だ?」
 泣いている?
 誰かが泣いているのか?

 ―――何という悲しみ。

 胸が張り裂けそうなほどの痛みを伴う悲しみを感じ取る。
 シャカは目指す場所へと続く回廊の途中でよろりと石柱に背埀れながら、息をつく。途方に暮れたように周囲を見回すが誰の姿もなかった。

 ―――痛い。息ができぬほど。

 ぐっと胸に手を当てながらゆっくり呼吸をする。
「内なる魂の嘆きか?……いや、違う。これは…別の誰か……」
 かつてシャカ自身が同じく悲しみ苦しんだことを誰かが嘆いている。その悲しい問いに対する答えはない。ただ、己が導き出した思いを、感じたことを心の中で呟いた。

 ―――人は誰しも他のものの命を糧として己の命を繋いでいる。
 例外はない。奪い、奪われ……与え、与えられるのではなかろうか?生があるとともに、死がある。
 これらは万物すべての理。創造のために破壊し、破壊することで創造する。世は常にとどまることなく移ろい行く。悲しみも憎しみも、やがて時の流れとともに泡沫の如く消えるであろう。
 生あるものは必ず滅びる。何一つとして不変、常住のものは無いのだから…それ以上、己の心を悲しい想いで満たすな―――

「……かつてのわたしのように」
 ふっと自嘲的な笑みを浮かべるとシャカは身体を起こす。そして、シャカの行く手を塞ぐかのように現れた者を睨み付けた。
「今度は貴方が相手か?」
 冷たく見下ろす視線をまっすぐに見つめる。
「そうだ……といいたいところだが、忌々しいことに私の自由意思はアイツに握られているのでな。仕方なくおまえを迎えに来たわけだ。邪魔者に奪われぬようにな」
「邪魔者……くっ!?」
 抗う隙も与えず、腕を取られ羽交い絞めにされた瞬間、空間に歪みが生じた。
「その手を離しなさい。シャカが嫌がっているじゃありませんか」
 もう随分昔に聞いたかのように思える懐かしい声に、シャカは耳を疑う。
「ムウ!?何故おまえが?それに……その姿は……」
 空間の歪みから現れた雄々しい羊は黄金の輝きではなく、かつて彼の恩師が纏っていたかのような闇色の輝きを放つ冥衣に身を包んでいた。
 そしてムウと共に現れ、後ろに聳え立つかのような単眼の巨人を見る。
「おまえもなぜ……?」
 どういった理由でこの巨人がムウと共に現れたのか。ムウが上手く言い包めて巨人に手引きさせたのであろうか?
「詳しい事情は後ほど。このような場所から一刻も早く立ち去らなければいけません。シャカ、冥界に戻りましょう」
「ムウ……まさか、おまえは……」
「ハーデスの傀儡となったわけではありません。ただ彼の力を借りざるを得なかったのです」
 そう言いながら、ムウは慎重に間合いを詰める。
「――ふん。よもや巨人が裏切るとはな。所詮は知能の低き者ということか!」
 シャカを戒めたまま、繰り出された衝撃波をムウはすかさず防御する。
「やめろ!」
「おまえがいる限り、下手に手出しはできぬだろうな。さて何時まで耐えられるか見てみたいが、アイツが我らの訪れる時を今か今かとしびれを切らして待っているのでな。ここはひとまず―――」
 前触れも無く一気に臨界まで高められた小宇宙を感じた瞬間、凄まじい衝撃波が辺り一帯を破砕する。
 何の躊躇もなく放たれた力は驚異の破壊力をもってムウたちに襲い掛かった。
「ぐっ!」
「ムウッ!!?」
 鉄壁を誇るムウの防御さえもいとも簡単に破壊したその力は、ムウと巨人に容赦なく降り注いだ。
「さて。おまえをアイツの元へ送り届けよう。なぁに、安心しろ。おまえの代わりに後でじっくりとやつらの相手をしてやるから」
 ニッと笑いを浮かべて、シャカの金色の髪を一房掴むとワザとらしく口づけてみせた。
「離せっ……!?」
 男の呪縛から逃れようとシャカは試みたが、ムウの安全を確かめることもできないまま、シャカは別の場所へと移された。
「ここは―――あの回廊の奥間か?」
 広い室を隔てる厚く遮られたカーテン。
 周囲を見渡しても誰もいなかったが、そのカーテンの向こう側に気配を感じた。

 ―――灼熱の炎の気配。

 鼓動が速まるのを感じながら、ゆっくりとカーテンに近づき、気配を強く感じる傍にシャカは立つと、厚いカーテンが小さく波打つかのように揺れた。その場所にそっと手を当てると布越しに伝わる体温と温かな小宇宙を感じた。
 内なる魂が叫びを上げる。叶うことなく散った悲しい思慕。哀れな魂。
 ほんの少し逡巡したのち、この場を譲ることに決めたシャカは静かに瞳を閉じた。しかし、次はないのだということを内に存在する意識へと言い聞かせながら。



作品名:比翼連理 作家名:千珠