比翼連理
23. 破壊ノ鼓動
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パラ・・・パラッ・・・
振り落ちる石礫の音を聞きながら、ムウは砂塵の舞う周囲に目を凝らした。先ほどの衝撃で床が崩れ、下の階層に落ちたのは判ってはいたが。
落下の衝撃がほとんど感じられなかったのは巨人が自分を庇ってくれたおかげなのだということを知る。ゆっくりと大きな手を退かし、起き上がったムウが目にしたのは無残にも身体半分を喪失し、絶命している巨人の姿だった。
どれほどの衝撃が自分たちを襲ったのか。
防御さえも儘ならなかった。
シャカはこの巨人を癒したのに。
私は―――。
ムウは爪先が皮膚を食い破るほど、ぐっと拳を握り締めた。
「ほう。生きていたか!」
嘲るような声がムウの背中にかけられる。動かぬ巨人を見つめたまま、ムウは静かに言葉を放った。
「彼は―――あなたの仲間ではないのですか」
「その者が、か?」
「ええ、そうです。その仲間は貴方の力によって息絶えたというのに」
巨人はこの神の力からムウを庇ったが為に絶命した。
「異なことをいう。そやつらを仲間とな?そんな醜い下等生物、下僕でしかすぎぬ。所謂“捨て駒”さ」
反吐が出るとばかりに吐き捨てた言葉に沸々と怒りが込みあがる。以前、冥王にも聖闘士たちを“捨て駒”と言っていたことを思い出す。神々にとっては神以外の存在は須く、そういったものなのだろうか?
「彼らは……“我らの世界を取り戻そう、我らの王のために”と口々に叫んでいた。自分たちの世界が築かれることを信じていた。貴方たちは……仲間ではなく、彼らをただの下僕と……そうおっしゃられるのですね?」
彼らは彼らなりの夢や希望を叶えるために戦ったはず。同じ志を持った者たちの為に戦ったはずだ。
だが―――頂に立つ者達は同じ志を持つ者を蔑むのか。
ゆらりと立ち上がったムウを包む怒りの炎を男は愉快そうに見つめた。怒りの矛先を男に向けたムウの瞳が妖しいほどに美しく輝いた。
「その通りだ。おまえ達もまた然り。フフ、神を前にして恐れぬか。屈することを知らぬおまえを傅かせるのも悪くない。非礼ではあるが、その豪胆さに免じて赦してやろう」
まるで己の言葉に酔い痴れるかのような男に不快感を露にする。
「貴方の赦しなど不要。シャカをどこへ隠したのですか。わたしが欲しいのはその答えのみ!」
すっと姿が掻き消えた次の瞬間、ムウは男の前に光速の拳を放った。
「面白い。ムウ、とかいったな?わが名はメノイティオス。憶えておくがいい」
ムウを弾きながら、大きく跳躍するとメノイティオスは次なる攻撃をしかける。
「――――といっても、おまえはここで息絶えるのだがな!」
しっかりと相手の動きを捉えているムウはほんの僅かに身体を動かして、その攻撃をかわした。
「申し訳ありませんが……お断りします!」
ようやくシャカのいる位置を把握したムウはうっすらと笑みを浮かべて言い放った。
男と応戦しながらもムウはシャカを探していたのだ。最大奥義を放ち、ムウが意図した場所に男が飛び退くよう仕向けた。計算どおりの場所に逃れたメノイティオスは反撃を開始した。
「何!?」
間髪要れず、相手の攻撃をクリスタルウォールで弾き返す。そのまま弾かれた力は丁度メノイティオスが降り立った上方に向かうようにした。
轟音とともに瓦礫が降り注ぎ視界を遮る。
「あなたでは私を足止めするには役不足だったようですね」
辛辣な言葉を贈ったムウは被った埃を払うようにサラっと髪を振り払うと、シャカの小宇宙が感じられる場所へと瞬間移動した。